2026 年 4 月末、Zenn Trending に 「Claude Codeにオレたち流のコードを書かせる(前編)— プロジェクトの流儀を自動抽出する」 がランクインしました。「既存コードベースから “流儀” を AI に抽出させ、CLAUDE.md / AGENTS.md に落とす」 という発想は、受託開発の現場で抱えていた長年の課題に直撃します。
弊社の受託案件は、毎回クライアント固有のコーディング流儀(ディレクトリ構造、命名規則、テスト戦略、コミット粒度…)が違うため、新規参画メンバーや AI エージェントに “流儀を引き継がせる” 工程が常にボトルネックでした。本記事では、Claude Code でクライアント流儀を自動抽出する設計を、受託の現場目線で整理します。
なぜ受託では “流儀の継承” が常にボトルネックなのか
受託開発で、新規参画者(人 or AI)が初週に詰まるパターンはどの案件でもほぼ同じです。
| 詰まりパターン | 典型例 | 工数ロス |
|---|---|---|
| ディレクトリ配置の流儀がドキュメント化されていない | components / features どちらに置く? | 1〜2 日 |
| 命名規則が暗黙知 | getUserById か findUser か | 0.5〜1 日 |
| テスト粒度がチームによって違う | E2E は誰が書く?単体だけ? | 1〜2 日 |
| コミット規約が口頭伝承 | Conventional Commits?日本語タイトル可? | 1 日 |
| エラーハンドリング哲学 | throw か Result 型か | 1〜3 日 |
| API 呼び出しの抽象化レベル | fetch 直書き?クライアント層は? | 2〜3 日 |
これら 総和で初週 1 週間〜2 週間が “流儀のキャッチアップ” に消えるのが典型的です。クライアントが 5 社あれば、参画メンバー 1 人につき 5 週間程度が “流儀学習” に消費される計算で、これは受託のスケール時に致命的です。
“オレたち流” を Claude Code に抽出させる 3 ステップ
元記事のアプローチを受託で運用する形に落とし込んだ 3 ステップを示します。
Step 1: コードベース全体をサンプリングして “流儀候補” を抽出
Claude Code に 「このリポジトリで一貫して使われているパターンを抽出して列挙してくれ」 と指示します。実装としては以下のようなプロンプトを claude コマンドで投げます。
claude -p "src/ 配下のコードを 30 ファイルランダムにサンプリングし、
以下の観点で『一貫して使われているパターン』を抽出してください:
1. ディレクトリ命名
2. ファイル命名
3. 関数命名
4. import 順序
5. エラーハンドリング
6. 型定義の置き場所
7. テストの書き方
表形式で出力してください。" > .ai/conventions-draft.md
ここで重要なのは 「Claude が “気づいた” パターン」と「Claude が “推測した” パターン」を分けて出させることです。前者は信頼度が高く、後者は人間レビューが必要です。
Step 2: 抽出された “流儀候補” を人間がトリアージ
Step 1 の出力を人間が見て、3 つに振り分けます。
| 振り分け | 扱い | 例 |
|---|---|---|
| 公式採用 | AGENTS.md に転記して命令化 | ”全ファイルは named export のみ” |
| 保留 | DESIGN.md に「現状そうだが意図的か不明」と記録 | ”テストファイルは __tests__ 配下” |
| 却下 | 偶然の産物として無視 | ”変数名が a, b, c になっている箇所がある” |
トリアージは テックリード + クライアント側の代表エンジニアの 2 名で実施するのが受託では適切です。クライアントが「これは流儀じゃなくて事故」と判断するパターンが必ず混じるためです。
Step 3: AGENTS.md / SKILL.md / DESIGN.md に転記して運用開始
公式採用された流儀を AGENTS.md(命令)/ SKILL.md(再利用手順)/ DESIGN.md(意思決定ログ)の三層構造に振り分けて配置します。受託で重要なのは 「弊社の標準テンプレート」と “今回の案件固有” を別ファイルに分ける ことです。
docs/
AGENTS.md ← 弊社共通テンプレ(コピー元から)
AGENTS.client.md ← Step 2 で抽出した今回案件固有の流儀
SKILL.md ← 弊社共通スキル
SKILL.client.md ← 今回案件固有のスキル
DESIGN.md ← 意思決定ログ(毎案件新規)
Claude Code の設定で AGENTS.md と AGENTS.client.md を両方読ませる構成にしておくと、標準テンプレが進化したら自動で全案件に反映しつつ、案件固有の流儀は独立に保守できます。
抽出時に “見落としがち” な暗黙知 5 選
実際にやってみると、Claude が抽出してくれない(またはノイズに埋もれる)暗黙知が必ずあります。受託で頻発する 5 つを示します。
| 暗黙知 | なぜ自動抽出が難しいか | 補足取得方法 |
|---|---|---|
| ”なぜこのライブラリを選んだか” | コード上に痕跡が残らない | git log の理由欄 + 当時の関係者にヒアリング |
| ”本番でハマった事故と回避策” | 直したコードしか残らない | インシデントレポート / Postmortem を別途読ませる |
| ”顧客側のレビュー観点” | 受託側のリポにはない | クライアント側の社内 Wiki を参照する許諾を得る |
| ”デプロイ時の手作業” | コード化されていない | デプロイ担当者に 30 分ヒアリング |
| ”仕様の例外条件” | テストに書かれていない | 営業 / CS 経由のクレーム履歴 |
これらは Claude Code 単体では取りこぼすため、人間側で 「ヒアリングしてから AI に追加投入する」 プロセスを必ず挟む必要があります。これは AIエージェント時代の要件定義 — Spec・Context・Harness 三層設計 で扱った “Context 層の収集” の 既存リポ版 に当たります。
CI 連携 — 流儀を維持する仕組み
抽出した流儀は 「書いたが守られない」 で終わるのが典型的失敗です。受託で “守らせる” には CI 連携が必須で、これは Claude Code 運用コスト最適化 2026 で扱った “AI コーディングの予算化” と同じく、仕組み化で定着率を担保する アプローチに当たります。
# .github/workflows/conventions-check.yml
name: Conventions Check
on: [pull_request]
jobs:
check:
runs-on: ubuntu-latest
steps:
- uses: actions/checkout@v4
- name: Run Claude Code Convention Check
run: |
claude -p "$(cat docs/AGENTS.md docs/AGENTS.client.md) \
に違反する箇所を PR diff から検出し、JSON 出力" \
--diff origin/main..HEAD > violations.json
- name: Post review comments
run: node scripts/post-conventions-review.mjs violations.json
ここで重要なのは 「違反検出」と「自動修正」を分ける ことです。検出は CI で常時、修正は人間レビュー後にエージェントが PR を別途作成、という分離にすると、規約違反のまま気付かずマージを防げます。
“流儀の更新” を回す運用 — 月次レビュー
抽出した流儀は 生き物です。新メンバー参画、ライブラリ更新、本番事故などを契機に進化します。受託で安定運用するには月次のレビュー会が現実解です。
| アジェンダ | 担当 | 所要 |
|---|---|---|
| 先月の規約違反トップ 5 共有 | テックリード | 10 分 |
| AGENTS.md / AGENTS.client.md の改訂提案 | 全員 | 30 分 |
| DESIGN.md に新規エントリが必要な判断の振り返り | テックリード + PM | 15 分 |
| Claude Code の挙動で気になる点 | 全員 | 15 分 |
月 1 回 70 分の投資で、流儀の腐敗を防ぐ + チーム合意を更新する が同時に達成できます。
受託パッケージの価格レンジ
弊社で「クライアント流儀の Claude Code 抽出 + 三層ドキュメント整備」を受託メニューとして提供する際の価格レンジです。
| パッケージ | 期間 | 価格レンジ | 主成果物 |
|---|---|---|---|
| 既存リポからの流儀抽出 + 文書化 | 2〜3 週 | 100〜220 万円 | AGENTS / SKILL / DESIGN 一式 |
| 抽出 + CI 連携 + 教育 | 4〜6 週 | 250〜500 万円 | 上記 + 違反検知 CI + 1 日ワークショップ |
| 複数リポへの横展開 | 8〜12 週 | 400〜900 万円 | 標準テンプレ + 案件 5 本同時整備 |
| 月次運用サポート | 月額 | 20〜50 万円/月 | 月次レビュー + 改訂支援 |
1 リポあたり 100〜220 万円は、新メンバー 1 人の立ち上がりが 2 週間短縮するだけで回収できる投資です。受託でメンバー入れ替わりが激しい現場ほど投資対効果が高くなります。
引き渡しチェックリスト — 受託でそのまま使える 10 項目
- AGENTS.md と AGENTS.client.md が分離されている
- AGENTS.client.md は今回案件固有のルールのみ
- SKILL.md / SKILL.client.md も同様に分離
- DESIGN.md は案件開始時から書き溜まっている
- CI で AGENTS.md 違反の自動検出が稼働
- 月次レビュー会の議事録が docs/decisions/ に残っている
- 「弊社標準テンプレ」と「クライアント固有」のリンク関係が README に明記
- 流儀抽出の元データ(サンプリング結果)がリポジトリに残っている
- 流儀の “却下リスト” も DESIGN.md に記録されている
- 引き渡し後 90 日のレビュー支援が SOW に明記
まとめ — 受託のスケールを支えるのは “流儀の AI 継承”
「Claude Code にオレたち流を書かせる」というアプローチは、受託開発のスケール限界を突破する鍵になります。クライアント数が 10 社、20 社と増えても、各社の流儀を AI に継承させて新規メンバーが初週で動けるようにする仕組みが整えば、受託の生産性は数倍化します。
弊社では、新規受託の開始 1〜2 週で 「流儀抽出 + 三層ドキュメント化 + CI 統合」 をセットで実施するのが標準です。「既存リポの暗黙知が属人化していて新人が立ち上がらない」「Claude Code を導入したが規約が守られない」というご相談は お問い合わせフォーム からお気軽にどうぞ。