Google は 2026 年 5 月 4 日、Workspace 管理コンソールに「AI コントロールセンター(AI control center)」をロールアウトしました。Gemini や外部の AI エージェントが Gmail / ドライブ / ドキュメント / カレンダーといった Workspace データへどのようにアクセスし、何を実行できるかを、管理者が 1 画面で監視・制御・監査できる新しいハブです。
2026 年に入ってから「Workspace Intelligence」「Workspace Studio によるエージェント作成」と、Workspace の中で エージェントが書き込み・実行まで行う機能が一気に増えました。AI コントロールセンターは、その裏側で必要になる 「データに触れさせる範囲」のガバナンスを提供するレイヤーで、特に Enterprise Standard / Enterprise Plus の管理者にとっては設定の優先順位が一段上がる新機能です。
AI コントロールセンターの位置づけ
新ハブは管理コンソールの 「生成 AI(Generative AI)> AI control center」に既定で表示されます。管理者がオプトインせずとも該当エディションのテナントに表示されるため、有効化作業そのものは不要です。
ハブが解決したい課題は次の 3 つに集約されています。
| 課題 | 旧来の運用での痛み | AI コントロールセンターの方向性 |
|---|---|---|
| AI 利用の可視化 | Gmail / Drive / Meet で別画面・別ログ | 利用状況を 1 画面に集約 |
| サービス別のセキュリティ設定 | Gemini in Meet、Gemini in Drive など個別に設定 | サービス別カードを 1 画面から起動 |
| 基盤セキュリティとの紐付け | 分類ラベル / DLP / 信頼ルールが別動線 | 同じハブから設定リンクで遷移 |
これまで Workspace のセキュリティ設定は **「文書管理は Drive 設定、メールは Gmail 設定、AI は Gemini 管理画面」と分散していました。AI 機能とエージェントが横断的にデータを扱う前提では、「誰が・どの AI に・どこまでデータを触らせているか」**が散在した管理画面では追えなくなる、という問題意識が背景にあります。

4 つのコアモジュール
AI コントロールセンターは大きく 4 つのモジュールで構成されています。
1. AI アクセスの監視と制御(Monitor and Control AI Access)
組織内で 誰が・どの Workspace アプリで・どの AI 機能を使っているかを即座に把握するためのモジュールです。Gemini 利用レポートや、Gemini App / Gemini for Workspace のコア管理設定への直接リンクを集約し、Gmail・ドライブ・ドキュメント・スプレッドシート・スライド・Meet・カレンダー・チャットの利用状況を一覧できます。
2. AI プロダクト個別のセキュリティ管理(Manage Security for AI Products)
サービス単位で AI 機能を絞り込むモジュールです。たとえば Gemini in Meet だけ録画要約を制限する、Gemini in Drive のみ社外共有ファイルへのアクセスをブロックするといった、サービスごとの粒度でのポリシー適用が可能です。「会議は AI 要約 OK だが、共有ドライブは要件あり」といった現実的な運用を、画面遷移の少ない動線で組み立てられます。
3. 基盤セキュリティの管理(Manage Foundational Security)
AI 単体ではなく、AI 利用が乗る土台のセキュリティを整えるモジュールです。具体的には次の 3 つを 1 画面に集約しています。
- 分類ラベル(Classification labels) — 機密文書を AI 操作対象から除外する基準
- 信頼ルール(Trust rules) — どの組織・OU・グループとの共有を許可するか
- データ保護ルール(DLP) — 機微情報のオーバーシェアと AI への入出力を防ぐ
オーバーシェアリング(権限過多なデータ共有)は 「AI 時代に最も増える事故」として 2026 年の脅威予測でも挙げられている領域で、AI を解禁する前に DLP と分類ラベルの整備を行う動線がここに揃いました。
4. プライバシー・コンプライアンス基準のレビュー
Google が約束する 「組織のデータを Google の AI モデル学習には使わない」などのプライバシー / 不正利用 / コンプライアンス基準を、管理者が確認しやすい形で提示するモジュールです。経営層・法務向けに「ベンダー側の保証はどこまで」を説明する資料として活用できる動線になっています。
エージェント時代の脅威と対策
AI コントロールセンターが立ち上がった 2026 年は、企業向け AI の脅威モデルが大きく変わった年でもあります。Google 自身も次の 3 つを「エージェント時代に増える事故」として位置づけています。
| 脅威 | 概要 | コントロールセンターでの対策動線 |
|---|---|---|
| 間接プロンプトインジェクション | ドキュメント・メール本文に仕込まれた悪意ある指示で AI を乗っ取る | サービス別ポリシー + Gemini の防御機構 |
| オーバーシェアリング | AI が権限過多な共有を引き継いで、見せるべきでない人にデータを露出 | 分類ラベル + 信頼ルール + DLP |
| データ流出(Data Loss) | エージェントが意図せず外部にデータを書き出す | エージェント管理 + 監査ログ |
特に 間接プロンプトインジェクションは、社内ドキュメントの隅に「以下の指示を実行してください」と書き込むだけで AI を誘導できる攻撃で、人間がレビューする前提のメール文面とは脅威の性質が違います。Google は Gemini 2.5 系モデルで敵対的データを使った訓練を行い、防御機構を強化していますが、「AI の判断に任せきらず、組織側でも DLP / 分類で多層防御する」前提が改めて確認された形です。
これは Kubernetes 自律 AI エージェントのセキュリティ受託 と同じ思想で、エージェントの権限はモデルの賢さではなく、外側のガードレールで決めるのが 2026 年の標準解になっています。
管理者が最初に押さえる 5 つの設定
AI コントロールセンターは 1 日で全部触り切るには情報量が多いため、初動で押さえるべき設定を優先順位順に整理します。
- Gemini 利用レポートの確認 — どの部署が AI を実際に使っているか把握する。利用ゼロの OU は AI 機能を一旦無効化してもよい
- DLP ルールと分類ラベルの整備 — 機密ファイルに「Confidential」ラベルを付け、AI 操作対象から除外
- Gemini in Meet / Drive の個別ポリシー — 「録画要約は許可、文字起こしは社外参加者がいる場合は無効」など、運用に合わせて絞る
- エージェント管理(Agent Management) — 外部エージェントのコネクタを棚卸しし、不要なものを停止
- 監査ログの保管期間と通知 — エージェントの実行ログを SIEM に転送するか、最低でも 90 日以上の保管設定にする
Google Workspace 導入ガイド の流れで OU・グループ設計を済ませている組織なら、上記 5 つはおおむね 半日〜1 日で初期設定が完了します。OU 設計が荒い組織では、ここで OU を切り直してから AI ポリシーを乗せるのが先決です。
エディション別の利用可否と AI Studio / Gemini Enterprise との関係
AI コントロールセンターは現在、Google Workspace Enterprise Standard / Enterprise Plus で利用できます。Business Standard / Business Plus 系では、Gemini 機能そのものは使える一方、集約ハブとしての AI コントロールセンターは提供範囲外です。
| エディション | AI 機能 | AI コントロールセンター |
|---|---|---|
| Business Starter / Standard | Gemini 機能の一部 | × |
| Business Plus | Gemini 機能あり | × |
| Enterprise Standard | Gemini 機能あり | ◯ |
| Enterprise Plus | Gemini 機能あり | ◯(推奨) |
Enterprise エディションへのアップグレードは 1 ユーザーあたり月数十ドルのコスト増になりますが、従業員 100 名以上で AI を解禁する組織にとっては、ガバナンスを別ツールで組むより素直に Enterprise に上げて AI コントロールセンターを使うほうが TCO で有利になりやすい構図です。
Gemini for Google Workspace 活用ガイド で扱った機能群を 「使えるようにするだけ」から 「安全に使い続けられるようにする」フェーズに進むタイミングで、エディション戦略を見直す価値があります。
受託支援としての切り口
弊社で AI コントロールセンターの導入支援を組む場合、典型的なパッケージは次の 3 段階です。
| パッケージ | 期間 | 価格レンジ | 含むもの |
|---|---|---|---|
| 現状アセスメント | 2〜3 週 | 50〜100 万円 | OU/グループ棚卸し + AI 利用棚卸し + ロードマップ提案 |
| AI コントロールセンター初期構築 | 4〜6 週 | 150〜300 万円 | DLP / 分類ラベル / サービス別ポリシー / エージェント管理 |
| 運用定着支援 | 月次保守 | 月 30〜80 万円 | 月次レビュー + ポリシー改定 + 教育コンテンツ更新 |
特に 「現状アセスメント」を飛ばすと、ポリシーを厳しくしすぎて現場が AI を使えなくなる事故が起きやすい領域です。利用状況の棚卸しに 2 週間かけてから、サービス別の絞り込みを設計するのが現実的な順序になります。
まとめ ─ 「使えるようにする」から「使い続けられるようにする」へ
AI コントロールセンターは、Google Workspace の AI 戦略を 「使えるようにする」段階から「使い続けられるようにする」段階に進めるためのハブです。Gemini と Workspace Intelligence と外部エージェントが同居する 2026 年以降、管理者が最初にダッシュボードを開く場所として機能していくことになります。
組織内の AI 利用が「点」から「面」に広がる前に、AI コントロールセンターで監視・制御・監査の動線を整えておくことが、間接プロンプトインジェクションやオーバーシェアリング事故の確率を一段下げる現実的な打ち手です。
弊社では、Workspace 導入から AI コントロールセンターのポリシー設計、Workspace Intelligence の活用設計、外部エージェント連携のセキュリティレビューまでを一括で受託しています。「Enterprise への切り替え判断と AI ガバナンス整備を同時に進めたい」「Gemini を全社解禁する前にコントロールセンターでガードレールを敷きたい」というご相談は お問い合わせフォーム からお気軽にどうぞ。