一部のユーザーだけ脱落するのはなぜか — 認知の多様性を前提にしたUXリサーチと情報設計 | GH Media
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一部のユーザーだけ脱落するのはなぜか — 認知の多様性を前提にしたUXリサーチと情報設計

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一部のユーザーだけ脱落するのはなぜか — 認知の多様性を前提にしたUXリサーチと情報設計

採用ページのアクセス数は伸びているのに、応募フォームの入力途中で半数近くが離脱する。問い合わせの前段にある「サービス説明」のセクションは、ヒートマップで見ると最初の数行で読むのをやめている人が目立つ。BtoBの申込フォームでは、必須項目を埋め切らずに離れる人が後を絶たない。

こうした「一部のユーザーだけが、問い合わせや申し込みの直前で脱落する」現象を、私たちはつい「文章が長いから」「デザインの好みが分かれたから」で片づけてしまいます。けれど実際には、もっと構造的な原因が潜んでいることが多い。情報を受け取り、処理し、判断するという過程そのものに、想定以上の負荷がかかっているのです。

一般に、入力フォームの平均離脱率は約7割に達し、その主因は操作性や技術的な問題以上に「心理的・認知的な負担」だとされます。つまり離脱は、視力や手の動きの問題というより、「読む・覚える・判断する」ところで起きている。この記事は、その認知の側面を、実装テクニックではなく「リサーチ手法と情報設計の考え方」の側から扱います。

「読めない」ではなく「処理しきれない」で人は離れる

Webアクセシビリティというと、文字を拡大できるか、コントラストは足りているか、キーボードだけで操作できるか、といった話を思い浮かべる方が多いはずです。これらは重要で、別記事のWebアクセシビリティ完全ガイドで扱っています。ただ、それらは主に「知覚」と「操作」の問題です。

一方で、見えていて操作もできるのに離脱する人がいます。原因は、注意・記憶・実行機能・読字といった「認知」の側にあります。W3C の COGA(Cognitive and Learning Disabilities Accessibility)タスクフォースは、認知特性に関わる困りごとを、注意・実行機能・知識・言語・リテラシー・記憶・知覚・推論という領域に整理しています。これは特定の診断名を持つ人だけの話ではありません。

たとえば次のような特性は、程度の差こそあれ多くの人が日常的に経験しています。

認知特性サイト上で起きやすいこと
注意の偏り(ADHD等)長い説明文の途中で集中が切れ、要点に到達する前に離脱する
字を読む負荷(ディスレクシア等)詰まった本文や横並びの選択肢を読み解けず、入力を諦める
文脈解釈のしかた(自閉スペクトラム等)曖昧な指示や暗黙の前提でつまずき、何を入力すべきか判断できない
加齢による変化一度に覚えられる項目が減り、複数ステップのフォームで途中放棄する

重要なのは、これらが「特殊な少数派」ではないという点です。加齢による認知の変化は誰にでも訪れますし、忙しさやストレスで一時的に注意が散漫になる状態は健常者にも日常的に起こります。つまり認知の多様性(ニューロダイバーシティ)を前提に設計を見直すことは、結果として「すべてのユーザーの離脱率」を下げる方向に働きます。

リサーチ段階で認知の多様性を取り込む

ここからが本題です。多くのサイト改善は、デザインや実装が終わった後の「テスト」で初めてユーザーに触れます。けれど認知負荷の問題は、テストの段階で見つけても手戻りが大きい。情報の出し方そのものを設計し直す必要が出るからです。だからこそ、リサーチの段階で認知の多様性を組み込んでおく価値があります。

Smashing Magazine が2026年6月に公開した認知インクルージョンのUXリサーチでは、3つのWebサイトを対象に30人のユーザーインタビューを行い、認知特性を持つ参加者と一般の参加者を半々で構成しています。重要なのは「テストの最後にだけ障害のある人を呼ぶ」のではなく、調査設計の最初から多様な認知特性を持つ人を含めている点です。やり方として、私たちが受託の現場で実践しているのは次のような考え方です。

第一に、被験者リクルートの基準を「年齢・職種」だけで切らないこと。「説明文を読むのが負担に感じることがあるか」「複数の手順を一度に覚えるのが苦手か」といった、認知の自己申告を任意で取り、属性に幅を持たせます。診断名を尋ねる必要はありません。

第二に、タスクを与えたら「正解できたか」だけでなく「どこで考え込んだか」を観察すること。沈黙、スクロールの往復、同じ箇所への視線の停滞は、認知負荷が高まっているサインです。発話思考法(タスク中に考えていることを声に出してもらう手法)と組み合わせると、「なぜ詰まったのか」が言語化されます。

第三に、評価を主観で終わらせないために、アクセシブルなユーザビリティ尺度のような標準化された質問票を併用すること。前掲のSmashing の研究でも、セッション末に AUS(Accessible Usability Scale)という10問の評価尺度を用いています。指標があると、改善前後の比較や、社内での合意形成がしやすくなります。

リサーチ要素従来のやり方認知の多様性を前提にしたやり方
リクルート年齢・職種・利用頻度で選定認知特性の自己申告を加え、幅を確保
観察の焦点タスク完了率・所要時間「どこで考え込み、何を諦めたか」
評価担当者の所感・NPS標準化された尺度で前後比較

情報設計に落とす — 「減らす」より「順序と粒度」

リサーチで見えた負荷を、では情報設計にどう反映するか。ここでよくある誤解が「とにかく文章を減らせばいい」というものです。実際には、量を削るだけでは判断に必要な情報まで失われ、かえって不安で離脱が増えることもあります。効くのは「順序」と「粒度」の設計です。

W3C の「Making Content Usable」は、認知特性に配慮した設計原則として、明確な構造、最も重要な情報を先に出すこと、一貫したパターン、簡潔な言葉づかい、ユーザーがエラーを回避・修正できることなどを挙げています。これを受託の情報設計に翻訳すると、次のような判断になります。

ひとつは「結論と次の一手を先に置く」こと。何のページで、ここで何をすればよいのかを冒頭で示し、詳細はその後に折りたためる形で続けます。注意が途切れやすい人ほど、最初の数行で「自分に関係があるか」「次に何をするか」を判断できることが離脱回避に直結します。

もうひとつは「一度に判断させる量を絞る」こと。たとえば申込フォームを全項目一画面に並べるのではなく、意味のまとまりごとに区切る。記憶の負荷が高い人にとって、長大な一画面は「全体像が把握できない不安」を生みます。なお、区切りを増やすとセッション切れのリスクも上がるため、入力の保持やタイムアウトの扱いは併せて設計する必要があります(この実装面はセッションタイムアウトのUX設計で詳しく扱っています)。

三つめは「曖昧さを排した言葉」。「該当する場合はご記入ください」のような条件付きの指示は、文脈の解釈が苦手な人にとって判断コストが高い。「○○の方のみ入力(それ以外は空欄で可)」のように、誰が・何を・どうするかを言い切る。これは認知特性の有無にかかわらず、入力ミスとサポート問い合わせを減らします。

弊社事例 — 採用ページで「読まれない説明」を作り直した

地方で複数店舗を展開するサービス業の A 社では、採用ページのアクセスは多いのに応募率が低い状態が続いていました。当初の仮説は「給与条件が弱い」でしたが、ユーザーテストを年齢・PCスマホ習熟度に幅を持たせて実施したところ、別の事実が見えてきました。

スマホで閲覧する応募検討者の多くが、冒頭の「私たちの想い」という長文セクションで読むのをやめ、肝心の「勤務条件」と「応募ボタン」まで到達していなかったのです。発話思考で観察すると、「どこに条件が書いてあるか分からない」「読み終わるのに時間がかかりそうで後回しにした」という声が共通していました。読めない人がいたのではなく、最後まで処理する前に離れていた。

そこで本文量は大きく削らず、構成を入れ替えました。冒頭に「募集職種・勤務地・給与・応募方法」を箇条で要約して置き、想いのセクションは下部へ。フォームは項目の意味ごとに2ステップに分け、各項目の指示文を言い切りの形に書き直しました。結果として、応募開始から完了までの離脱が目に見えて減り、サポートへの問い合わせも減少しました。やったことは「情報を減らす」ではなく「順序と粒度を変えた」だけです。

このように、認知の多様性を前提にした設計は、抽象的な配慮ではなく、コンバージョンに直結する実利のある投資です。投資対効果としてどう説明するかはUX投資のROIをどう正当化するかも参考にしてください。

何から始めるか

大がかりな調査をいきなり組む必要はありません。まずは、いま離脱が起きている1ページか1フォームを選び、被験者を年齢や習熟度で幅を持たせて3〜5人に絞った発話思考のテストを行ってみてください。「どこで考え込み、何を諦めたか」を記録するだけで、量を削るべきか、順序を変えるべきか、言葉を直すべきかの当たりがつきます。

その上で、見えた負荷を情報設計に落とす段階で迷ったら、外部の手を借りるのが近道です。リサーチの設計から、情報の順序づけ、フォームの実装までを一貫して引き受けられるのが受託の強みです。認知の多様性を前提にしたサイト改善やUXリサーチをご検討の際は、お問い合わせからお気軽にご相談ください。

Sources

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記事を書いた人

鈴木 翔

鈴木 翔

技術の可能性に魅了され、学生時代からプログラミングとデジタルアートの分野に深い関心を持つ

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