「Google Workspace にすること自体は決まっているんですが、過去のメールをどうするかで止まっています」——導入の相談で、いちばん多い足踏みの理由です。新しい環境を作るところまでは進む。ところが十数年分のメールが入ったレンタルサーバーを前にすると、誰も「捨てましょう」と言えない。
この足踏みは、たいてい情報が足りないことから来ています。何が移せて何が移せないのか、どのくらい時間がかかるのか、切替の日にメールが消えないのか。ここが分かれば決められる話です。
移行で難しいのはコピーではなく、切替の順序
先に結論を書くと、過去メールのコピーは移行作業の中でいちばん難しくない部分です。時間はかかりますが、失敗しても再実行できます。
本当に神経を使うのは、宛先の切替です。ドメインのMXレコードを新しい環境に向けた瞬間から、新着メールはGoogle Workspace側に届き始めます。ところがDNSの変更は世界中に一斉には伝わりません。切替直後のしばらくは、送信元によって古いサーバーに届いたり新しい環境に届いたりする期間が生じます。
この期間に古いサーバー側の受信を止めてしまうと、そこへ届いたメールは行き場を失います。逆に古い側を生かしたまま放置すると、担当者が気づかないメールが旧環境に溜まり続けます。移行が失敗する形は、たいてい過去メールが消えることではなく、切替の数日間に届いたメールを誰も見ていなかったことです。
順序としては、次のようになります。
- 新しい環境にユーザーを作り、MXを切り替える前に過去メールのコピーを走らせる
- MXを切り替える
- 古いサーバーはすぐ止めず、一定期間そのまま受信できる状態で残す
- 切替後にもう一度だけコピーを実行し、切替期間に古い側へ届いた分を回収する
- 数週間、旧環境への着信がゼロになったことを確認してから停止する
4番を計画に入れていない移行が、あとで「あのメールが見当たらない」を生みます。
データ移行サービスで移せるもの
過去メールのコピーには、Google Workspace 管理コンソールのデータ移行サービスを使います。以前のものから刷新され、移行元として次のようなものを扱えます(新しいデータ移行サービスについて — Google Workspace 管理者 ヘルプ)。
- 別の Google Workspace アカウント
- Microsoft Exchange Online のアカウント
- IMAP でアクセスできるメールサーバー
- 個人の Gmail アカウント
中小企業の移行で該当するのはほぼ3番目です。 レンタルサーバーの標準的なメール機能はIMAPでアクセスできるため、この経路に乗ります。Yahoo!、iCloudメール、GoDaddy、Zoho、Titan といったIMAPベースの提供元も同じ扱いです。
一方、移らないものもはっきりしています。
| 項目 | 扱い |
|---|---|
| メッセージと添付の合計が25MBを超えるもの | 移行されない |
| Gmailがブロックする種類の添付(実行形式など) | 移行されない |
| 連絡先・カレンダー | メールとは別の移行手順になる |
| メールの振り分けルール・署名 | 移行対象外。各自で作り直す |
1行目は現場で必ず出ます。設計図や動画を添付でやり取りしてきた業種では、25MB超のメールが数百件単位で存在します。 これらは移行後に「あるはずのメールがない」として発覚するので、移行前に旧サーバー側で大きいメールを検索し、必要なものはファイルとして別途保管する段取りを入れておきます。
4行目も軽視されがちです。長年使ってきた振り分けルールは、本人にとっては業務の一部です。移行後に「受信トレイが整理されなくなった」という不満が出るのは、たいていここが原因です。移行の案内に「振り分けルールは移りません」と1行書いておくだけで、問い合わせがかなり減ります。

つまずくのは、移行先ではなく移行元
移行の作業が想定どおりに進まないとき、原因はほぼ旧サーバー側にあります。
いちばん多いのが同時接続数の制限です。データ移行サービスは複数ユーザー分を並行して処理しますが、共用のレンタルサーバーには「同時に張れる接続数」の上限があります。50ユーザー分を一斉に走らせるとタイムアウトする環境は珍しくありません。10〜20ユーザーずつに分けて段階的に流すほうが、結果的に早く終わります。
次に多いのがフォルダ構造です。旧環境で日本語名のフォルダを深い階層で使っている場合、移行後の見え方が想定と変わることがあります。移行前に、いちばんフォルダを作り込んでいる人1名を選んで先行して移し、見え方を本人に確認してもらうのが確実です。全員分を流した後で構造の問題に気づくと、やり直しの規模が違います。
そして、そもそも旧サーバーの管理情報が分からない、という状況も実際に起きます。サーバーを契約した担当者が退職している、管理画面のパスワードが不明、契約している会社名すら曖昧。この場合は移行の技術的な難易度ではなく、契約情報の掘り起こしが最初の作業になります。ここに数週間かかることを見込んでおいてください。
移行と同時に決めておくこと
せっかく移すなら、旧環境の運用をそのまま持ち込まないほうがいい部分があります。
共有アドレスの扱いがその代表です。info@ や support@ を、これまで1つのメールボックスとして複数人でパスワードを共有して見ていた会社は多いはずです。Google Workspace ではグループとして作り、個人アカウントでアクセスする形にできます。誰が返信したかが残り、退職時にアクセスを外すのも1操作で済みます。パスワードを共有したメールボックスは、移行のタイミングでしか無くせません。
外部のメールを取り込んで一元管理していた場合は、経路そのものの見直しが必要です。Gmail の外部メール取り込み機能は終了が決まっており、その前提での設計はGmailの外部メール取り込みが終了にまとめました。独自ドメインのメールをどこで受けるかという選択肢の全体像は独自ドメインメールの選択肢を、グループウェア全体を移す場合はサイボウズ・Microsoft 365からの移行を参照してください。
まず1人だけ移してみる
計画を精緻にする前に、代表者1人分を実際に移してみるのがいちばん早い調査になります。
対象に選ぶのは、社内でメールをいちばん多く溜めている人です。容量が大きく、フォルダが複雑で、添付が重い。ここで問題が出なければ、他の人で出る問題はほぼありません。逆にここで25MB超のメールやフォルダ構造の問題が見つかれば、それが全社の移行計画に必要な項目のすべてです。
かかった時間を記録しておけば、全社分の所要時間もおおよそ見積もれます。机上で調べるより、1人分を流したほうが確実な情報が手に入ります。
メールを含めた Google Workspace への移行を、業務を止めずに進める段取りに落としたい、旧環境の契約状況から整理してほしい——そうしたご相談は、グリームハブのIT・Google Workspace 無料相談で承っています。要件によって最適な構成は変わるため、個別にお見積りします。お問い合わせからご相談ください。