「思い切ってホームページをリニューアルしたんです。デザインは見違えるほどきれいになったんですが、なぜか検索からのアクセスが半分以下に落ちてしまって。問い合わせも増えていません」——先日、社員四十名ほどの会社の経営者からこんな相談を受けました。リニューアル自体は無事に公開され、見た目には何の問題もない。それなのに、これまで安定して人を連れてきていた検索流入が、公開を境に音を立てて減っていました。
コーポレートサイトのリニューアルで起きる失敗の多くは、実はデザインの良し悪しではありません。発注前の段取りと、公開時の地味な技術的処理で決まっています。そして厄介なことに、これらの失敗は公開直後には気づきにくく、数週間経って「アクセスが戻らない」と分かったときには回復に何か月もかかります。本記事では、発注者が制作会社に任せきりにする前に自分で押さえておくべき論点を、AI検索時代の注意点も含めて、受託で伴走する立場から整理します。
なぜ「きれいになったのに流入が消える」のか
最初に、いちばん多い失敗の正体を押さえます。検索流入が落ちる原因の大半は、URLの引き継ぎ漏れです。
リニューアルでは、ページのURLが変わることがよくあります。サイトの構造を作り直したり、CMSを乗り換えたりすると、旧サイトの/company/about.htmlが新サイトでは/about/になる、といった変化が起きます。このとき、旧URLから新URLへ「引っ越し先はこちら」と転送する設定、いわゆる301リダイレクトを正しく張らないと、検索エンジンが持っていた旧URLの評価が新URLに引き継がれません。
それまで検索で上位に表示されていたページが、リニューアルを境に「存在しないページ」になり、検索結果から消える。外部サイトから張られていたリンクも、リンク先が消えるので無効になる。これが「きれいになったのに流入が消える」の正体です。実際の現場では、リダイレクトが一部のページでしか張られていなかった、というケースが本当に多い。リニューアルにおけるURL移行とSEOの引き継ぎは、ドメインを変える場合にはさらに複雑になります。詳しくはドメイン移行とサイトリニューアルのSEOの記事で扱っていますが、要は「旧サイトの資産をどう新サイトに引き継ぐか」を設計しないリニューアルは、過去の蓄積をゼロに戻す行為になりかねません。
もう一つ多いのが、流入していたページを「古いから」と削除してしまう失敗です。見た目が古いページでも、検索から人を連れてきている稼ぎ頭であることがあります。中身を見ずに消すと、その流入ごと失います。
発注前に、発注者の側で決めておくこと
では、制作会社に任せる前に、発注者が自分で固めておくべきことは何か。突き詰めると、目的・現状把握・契約条件の三つに集約されます。順に見ます。
一つ目は、リニューアルの目的を数値で持つことです。「なんとなく古いから」では、制作会社は見た目を整えることしかできません。問い合わせを増やしたいのか、採用応募を増やしたいのか、特定の事業の認知を上げたいのか。目的が曖昧なままだと、丸投げになり、見た目だけ整って成果につながらないサイトになりがちです。問い合わせを月に何件にしたい、といった数値の目標まで持てると、何を計測し、どのページをどう設計すべきかが定まります。
二つ目は、現状の流入ページの把握です。いま、どのページに・どの検索キーワードで・どれだけ人が来ているか。これを把握しないままリニューアルすると、稼ぎ頭のページを知らずに消したり、URLの引き継ぎ対象を見落としたりします。アクセス解析を見て、流入の多い順にページを並べた一覧があるだけで、「これは絶対にURLを引き継ぐ」「これは中身を残す」という判断ができます。
三つ目は、契約段階で追加費用の条件を文面にしておくことです。リニューアルは進める途中で「ここも直したい」が必ず出ます。どこまでが見積もりの範囲で、何をすると追加費用になるのかを最初に文面で握っておかないと、後でトラブルになります。
| 発注前に決めること | 決めておかないと起きること |
|---|---|
| 目的と数値目標(問い合わせ・採用など) | 見た目だけ整い成果が出ない |
| 現状の流入ページ一覧 | 稼ぎ頭のページを知らずに削除・URL断絶 |
| 追加費用が出る条件(契約文面) | 途中での費用トラブル・予算超過 |
公開時に「これは確認しましたか」と聞くべきこと
技術的な処理は制作会社の仕事ですが、発注者として「これは確認したか」と聞けるかどうかで、事故率が大きく変わります。聞くべき勘所を挙げます。
まず、旧URLから新URLへのリダイレクトを、流入のあるページすべてに対して張ったか。一部だけ、では意味がありません。次に、公開直後に検索エンジンへ新しいサイト構成を伝える手続き(サイトマップの送信など)をしたか。そして、公開前のテスト用サイトが検索エンジンに拾われない設定になっていたか。テスト中のサイトがうっかり検索に出てしまい、本番と重複して評価が分散する事故も起こりがちです。
加えて、表示の速さも確認したい点です。デザインを凝りすぎて読み込みが重くなると、せっかく来た訪問者が離れ、問い合わせにもつながりません。見た目の派手さより、速く・軽く・伝わることが成果には効きます。この観点はHTMLファーストで作り直してCVを回復した記事でも扱っていて、「重厚なサイトにしたら問い合わせが減った」という失敗は、リニューアルでこそ起きやすいものです。
AI検索時代に、もう一つ増えた論点
2026年のいま、リニューアルにはもう一つ考えるべき軸が加わりました。検索の入口が、従来の検索結果だけでなく、AIによる回答や要約に広がってきていることです。
ユーザーが何かを調べたとき、AIが複数のサイトの情報をまとめて回答し、その中で自社が引用されるかどうかが、新しい流入の分かれ目になりつつあります。AIに正しく引用されるには、会社情報やサービス内容が機械にも読み取りやすい構造で書かれていること、そして情報の信頼性と専門性が伝わることが効きます。見た目を整えるだけのリニューアルでは、この新しい入口を取りこぼします。AIに引用される構造をどう作るかはAIに引用されるサイト設計の記事で詳しく扱っていますが、リニューアルは、この対応をまとめて仕込める絶好のタイミングでもあります。従来のSEOを守りつつ、AI時代の入口にも備える。これからのリニューアルは、この二つを同時に設計する必要があります。
事例: 公開後に流入が戻らず、原因を切り分けた会社
具体例を挙げます。先ほどの「アクセスが半分以下に落ちた」会社(社名は伏せます)のその後です。相談を受けて新旧サイトを突き合わせると、原因はすぐに見えました。リニューアルでURLの構造が大きく変わっていたのに、リダイレクトが一部の主要ページにしか張られておらず、流入の多かった事例紹介ページ群がまるごと「存在しないページ」になっていたのです。さらに、古いという理由で消されたページの中に、特定のキーワードで上位に出ていた稼ぎ頭が混ざっていました。
そこで、まず流入のあった旧URLを洗い出し、対応する新URLへのリダイレクトを漏れなく張り直しました。削除されていた稼ぎ頭のページは、内容を新サイトのデザインに合わせて復活させ、旧URLからつなぎ直します。同時に、テスト用サイトが検索に拾われていた形跡があったので、それも整理しました。
公開からの対応だったため回復には数か月かかりましたが、リダイレクトの張り直しから徐々に流入が戻り、最終的にはリニューアル前の水準を上回るところまで回復しました。いちばんの教訓は、デザインに問題は無かったということです。失敗は発注前の現状把握と、公開時のURL引き継ぎという、見た目の外側で起きていた。先に流入ページを把握し、リダイレクトの確認を発注者として求めていれば、最初から防げた事故でした。
まず「いま誰がどのページに来ているか」を一覧にする
リニューアルを検討するなら、デザインの相談を始める前に一つだけやってください。いまのサイトで、どのページに・どんなキーワードで・どれだけ人が来ているかを一覧にすることです。これがあれば、絶対に引き継ぐべきページが見え、目的の数値も立てやすくなり、制作会社にも的確な要望を出せます。
リニューアルの成否は、新しいデザインのセンスより、過去の資産をどう引き継ぐかの段取りで決まります。目的を数値で持ち、流入ページを把握し、契約で追加費用の条件を握る。公開時にはリダイレクトとテストサイトの設定を確認する。この発注者側の準備があれば、「きれいになったのに流入が消えた」という失敗はほぼ防げます。見た目を新しくすることと、これまでの蓄積を守ることは、両立できます。
リニューアルを検討しているが過去の流入を失いたくない、すでに公開して流入が落ちてしまった、発注前に何を準備すればいいか整理したい——そうしたお悩みがあれば、グリームハブのHP制作・リニューアル相談からお気軽にご相談ください。現状の流入ページの棚卸しから、URL引き継ぎの設計、AI検索時代を見据えた構造づくりまで、過去の資産を活かすリニューアルの進め方をご一緒します。