
来期の保守見積りが届いて、金額が上がっている。理由の欄には「メモリ価格の高騰による」とだけ書かれている。自社の業務システムはAIを一切使っていないのに、なぜAIの話が請求書に出てくるのか。 交渉の余地があるのか、それとも受け入れるしかないのか。この判断のために必要な材料を整理します。
結論から言えば、これは取引先の値上げ交渉ではなく調達市場で起きていることの反映です。ただし、そのまま全額を受け入れるしかない話でもありません。
何が起きているか
欧州の大手ホスティング事業者 OVHcloud が、9月から専用サーバーの価格を引き上げると発表しました。値上げ幅は世代によって差があります。
| 対象 | 値上げ幅 |
|---|---|
| 2026年世代のゲーム向けレンジ | 最大 87% |
| 現行世代のサーバー | おおむね 40〜59% |
| 2024年世代のサーバー | 平均 28% |
創業者の Octave Klaba 氏によれば、6月時点でメモリの調達価格は1年前の6倍になっており、9月には9倍、2027年初頭には12倍という見通しを示しています。
原因は、メモリメーカーが生産能力をAI向けの広帯域メモリへ振り向けたことです。一方で、従来型のDRAMやNANDの需要は減っていません。 供給が細った市場に同じ需要が残れば価格は上がります。AIを使っていない企業の業務システムが、AI投資の副作用で値上がりするのはこの構造によるものです。
対照的に AWS はほとんど価格を動かしていません。数年先を見越して調達しているため、直近の市況が請求にすぐ現れないからです(予約型のGPU製品で1つ再値付けが行われています)。月ごとに調達している事業者ほど早く、まとめて先に買っている事業者ほど遅く効くという違いです。
自社の請求のどこに、いつ出るか
同じ理由の値上げでも、契約の形によって現れ方が変わります。ここを取り違えると、対処の順番を間違えます。
- 専用サーバー・VPS・国内ホスティング: 最も早く、はっきりと出ます。契約更新のタイミングで通知が来ます。
- ハイパースケーラの従量課金: すぐには出にくいものの、遅れて効いてきます。今の請求が据え置きでも、来年の単価が同じ保証はありません。
- オンプレミス機器の更改: 見積り時点で直撃します。サーバーの本体価格そのものにメモリ代が乗っているためで、こちらは値上げ通知ではなく見積額として現れます。
- 受託開発・保守の委託費: 委託先が上のいずれかを負担している場合、遅れて転嫁されます。理由の内訳を確認する価値があるのはここです。保守費の内訳をどう読むかは業務システムの保守費の内訳に整理しています。

いま動く価値がある判断
値上げ幅が数十パーセントに及ぶなら、これまで「やるほどではない」と見送っていた作業の採算が変わります。 具体的には次の3つです。
- 使っていない環境の棚卸し。 検証用に立てたまま止めていないサーバー、退役したはずの旧環境、誰も見ていない監視用のインスタンス。単価が上がるほど、放置のコストは比例して増えます。まず一覧を作るだけで、たいてい削れる分が見つかります。
- メモリ搭載量を前提にした構成の見直し。 「余裕を持って多めに」で決めた搭載量が、いまは最も高い部分です。実測のピーク使用量を確認し、必要量に寄せる余地があるかを見ます。アプリケーション側でメモリ使用量を下げる打ち手はバックエンドのメモリ使用量を減らすにまとめました。
- 更改時期そのものの見直し。 来年に予定していた機器更改なら、いま前倒しする合理性があるかを検討する価値があります。ただし後述のとおり、これは慎重に判断すべき項目です。
クラウド費用の継続的な見直しは、値上げの有無にかかわらず効きます。可視化と削減の進め方はクラウドコストの棚卸しを参照してください。
急いではいけない判断
一方で、価格の急変時に踏みやすい地雷もあります。
1つ目は、値上げを避けるための駆け込み移行です。 移行には設計・検証・切り替えの工数がかかり、その費用は値上げ分を上回ることが珍しくありません。移行先も同じメモリ市場から調達しているので、いま安く見えても半年後に同じ通知が届く可能性があります。
2つ目は、価格が上がりきる前にと長期契約へ飛びつくことです。 3年契約は単価を固定できますが、固定するのは「いまの高い水準」かもしれません。 市況のピークがどこかは誰にも分かりません。判断するなら、価格の見通しではなく「その構成を3年使い続けることが確実か」を根拠にしてください。
3つ目は、値上げ分をそのまま利用者に転嫁する前に、内訳の確認を飛ばすことです。 委託先からの値上げ通知に、市況によるものとそれ以外が混ざっていることがあります。何がどれだけ上がったのかを聞くのは、正当な確認です。
次にやること
まず、現在稼働しているサーバーとその契約更新月を一覧にしてください。 更新月が近い順に、値上げ通知が来る順番になります。この一覧がないと、通知が来るたびに個別対応することになります。
そのうえで、そのうち「止めても誰も困らないもの」に印を付けてください。 単価が上がった今は、その1台を止める判断がこれまでで最も効く時期です。
システム構成の見直し、クラウド費用の棚卸し、サーバー更改の判断材料の整理については、グリームハブの開発・AI・自動化のご相談で承っています。現在の構成と契約形態によって取れる手が変わるため、個別にご相談ください。お問い合わせからどうぞ。
Sources
- OVHcloud Raises Prices as AI Memory Demand Reprices Non-AI Infrastructure — InfoQ
- OVHcloud to raise dedicated server prices by up to 87 percent from September — Data Center Dynamics
- OVHcloud increases prices by up to 87 percent due to more expensive RAM and storage — ITdaily
- Pricing evolution of Public Cloud, Bare Metal and VPS at OVHcloud — OVHcloud Blog




