応募書類の一次選考を Claude に手伝わせる社内ツールを作った。顧客向けの問い合わせボットを開発会社に発注し、近く公開する。その仕組みで AI の結果をどこまで人が確かめ、利用者に何を表示すべきかを、提供元の規約に照らして説明できるでしょうか。
Anthropic は2026年10月8日付で、Claude の利用ルールである Usage Policy の新しい版を公表しました。発効は 2026年11月12日 です。本記事では公表記事と新旧2つの版の原文を比べ、人事・労務での利用、顧客向けチャットボット、エージェントについて、何が書き直され、何が以前から変わっていないのかを整理します。法的な助言ではなく、日本の法令との関係は確認していません。
変わったのは「書き方」、要件は以前から
高リスク用途の要件について、Anthropic は公表記事で「変わっていない」と明言しています。健康、法的な権利、財務、生計などに影響する使い方では、資格のある人が確認する「human in the loop」と、本人に AI を使ったと伝えることを求めているとしたうえで、こう書いています。
These requirements haven’t changed with the updated version of our Usage Policy. However, users have often asked us whether a given use case has these requirements, so we’ve rewritten our High-risk Use Case Requirements section to answer that more directly. It now lists which kinds of recommendations are covered and which are not.
前の版(2025年9月15日発効)にも、人が確認する要件と AI の利用を伝える要件はありました。11月12日に急に義務が生まれるのではなく、以前から対象だった使い方が、書き直しで見分けやすくなったと読むのが適切です。新しい版は冒頭で、適用対象に Claude を組み込んだ製品・サービスのエンドユーザーも含むと書いており、開発会社から導入したツールを使う側も無関係ではありません。
公表記事にない文面の差分
新旧の原文を編集部が比べたところ、公表記事が触れていない差分もありました。
- 前の版は高リスク用途を「specific consumer-facing use cases」としていましたが、新しい版は「specific use cases that pose an elevated risk of harm to individuals」で、「consumer-facing」の語がありません。従業員向けの人事ツールも対象になり得ることが、文面上は読み取りやすくなりました
- 前の版の一覧にあった「Media or professional journalistic content(コンテンツを自動生成して外部に公開する用途)」は、新しい版の11の領域に見当たりません。公表記事に説明はなく、文面比較の結果です
- 要件は各国の法令を置き換えず、食い違いや追加の要件があれば法令に従うべきだ、という一文が加わりました
人事・労務で対象になる使い方
新しい版の「Employment」の範囲
新しい版は高リスクの領域(High-risk Areas)を11に分けています。雇用の項目は次のとおりです。
Employment — screening, ranking, advancing, or rejecting candidates; hiring; promoting or demoting; setting or changing shifts, hours, or pay; evaluating a worker’s performance or behavior, including through disciplining, suspending, or terminating a worker.
前の版は「Employment and housing」として、雇用可能性の判断、履歴書のスクリーニング、採用ツール、その他の雇用に関する判断を挙げていました。新しい版では シフト・勤務時間・給与の設定や変更 と 勤務評価(懲戒・停職・解雇を含む) が名指しされています。これらが前の版の「その他」に含まれていたかは解釈の問題ですが、Anthropic が要件は変わらないとしている以上、以前から対象だったものとして点検することを編集部は勧めます。
対象なら求められる2つのこと
上記の領域で AI が推薦(High-risk AI Recommendation)を出す場合、新しい版は次を求めています。
- 資格のある人による確認。 推薦が助言として本人に届く前、または判断の実行に使われる前に、その分野を評価できる訓練や経験を持つ人が、変更できる権限を持って実質的に確認する。結果の正確さと適切さの責任はその人に残る
- 本人への明示。 助言を受ける人、判断の対象になる人に AI を使ったことをはっきり伝える。原文は「Users do not need to identify Anthropic, Claude, or the model used.」で、モデル名まで示す必要はない
シフト表の案を Claude に作らせるなら、担当者が直せる状態で確かめてから確定し、従業員には作成に AI を使っていると伝える形です。本人に全面的に有利な判断なら人の確認を省ける例外もありますが、挙げられているのは保険金の支払いや公的給付の付与などで、雇用は含まれていません。
対象外とされる使い方
実務で役立つのは、対象外の例が並んだことです。前の版で明示された対象外は、医療の項目のウェルネスの助言程度でした。新しい版は、推薦に関連はするが推薦そのものは出さない使い方として、次を挙げています(網羅ではないと明記)。
- 法律や制度の仕組みを、個人の事情に当てはめずに説明する
- 資格のある人がすでに出した助言や判断を、本人が理解できるよう説明する
- 最終の推薦ではない社内の下書き・調査・要約・分析(「Internal drafting, research, summarization, or analysis that is not the ultimate High-risk AI Recommendation delivered.」)
- 人が下した判断の実行や、AI が個人について判断しない固定のルール・計算式の適用
- 特定の個人について助言も判断もしない業務(「Business operations that do not advise or decide about a specific individual.」)

境界の考え方(編集部の整理)
以下は原文からの編集部の読み方で、Anthropic が個別に判断を示したものではありません。
- 面接記録の要約や求人票の下書きは、特定の候補者への推薦でなければ、社内の下書き・要約に近いと考えられます
- 応募者の点数順の並べ替えや合否案は「screening, ranking」に当たります。要約の形でも候補者の優劣を示し、そのまま判断に使うなら対象と見るべきです
- 勤続年数から有給日数を出すような固定ルールの適用は対象外の例に近い一方、ルールの当てはめ方を AI が判断するなら別です
迷ったら「その出力が、特定の個人についての判断にそのまま使われるか」で切り分けると整理しやすくなります。
顧客向けチャットボットとエージェント
AIであることの表示
外部の利用者と直接やり取りするチャットボットや AI エージェントには、高リスクかどうかにかかわらず次の要件があります。
All consumer-facing chatbots or AI agents that communicate directly with external users must disclose to users that they are interacting with AI rather than a human. This disclosure must be provided at a minimum at the beginning of each chat session or in the product interface. The disclosure does not need to identify Anthropic, Claude, or the model used.
「チャットのセッションの始めに示す」要件は前の版にもありました。書き加わったのは、製品の画面上で示す方法も認められたことと、Anthropic・Claude・モデル名を示す必要はないと明記されたことです。人間を装うことは前の版でも禁止されていました。
原文から編集部が整理した点検項目は次のとおりです(Anthropic が十分性を示したものではありません)。
- 開始時の最初のメッセージか、入力欄の近くなど常に見える位置に「AI が回答しています」といった表示がある
- 有人対応へ引き継ぐ場合、AI の応答と人の応答を利用者が区別できる
- ボットの名前・アイコン・口調が、人間の担当者だと誤解させない
- LINE など自社サイト以外の窓口でも、それぞれの画面で表示が見える
表示の設計はAI機能の「透明性UI」を受託で設計する、導入の検討から始める場合は中小企業のWebサイトにAIチャットボットを導入する完全ガイドも参照してください。
作った側・動かす側の責任
エージェントについて、前の版は「Usage Policy に従う必要がある」と書き、例をヘルプ記事に委ねていました。新しい版は責任の所在を明記しています。
Users are responsible for ensuring that agents they build or deploy, including actions those agents take through tools, browsers, or connected systems, comply with this Usage Policy.
ツールやブラウザー、接続先のシステムでの操作も含めて、作った側(build)と動かす側(deploy)が責任を負う書き方です。開発会社に作らせたエージェントを自社で動かすなら、発注した会社も「deploy」側に当たると読めます。採用管理システムに接続したエージェントが応募者の選考状況を自動で更新するなら、高リスクの判断に当たり得るため、許す操作を Usage Policy の観点からも決めておく必要があります。
11月12日までに確認すること
Claude を組み込んだツールを使う・発注している会社が、発効日までに確かめたいことを編集部の提案としてまとめます。
- 採用選考、シフト・勤務時間・給与、勤務評価・懲戒に Claude の出力を使っている箇所を洗い出す
- それが特定の個人についての推薦・判断か、社内の下書き・要約にとどまるかを、対象外の例と照らす
- 対象なら、誰がどの段階で、変更できる権限を持って確認するかを業務手順に書く
- 応募者や従業員に AI の利用をどう伝えるか(募集要項、通知文、社内規程など)を決める
- すべての窓口のチャットボットで、開始時または画面上の表示を確かめる
- 発注先がある場合、表示や操作の制限をどちらが実装・保守するかを合意する
社内の AI 利用ルールが未整備なら、中小企業のAI利用ルール・ガイドライン整備の実務で、入れておく項目を整理しています。
確認した範囲
2026年10月10日に、Anthropic の公表記事「2026 Usage Policy update」(Oct 8, 2026)、新しい Usage Policy(Effective November 12, 2026)、同ページからリンクされた前の版(Effective September 15, 2025)の3ページを直接取得し、高リスク用途の要件、雇用の項目、対象外の例、チャットボット・エージェントの記述を原文で照合しました(資料調査)。公表記事が説明していない差分(「consumer-facing」の語やメディア・報道コンテンツの項目の削除など)は、編集部の文面比較の結果です。Anthropic による個別の使い方の判断、違反時の運用、日本の法令(個人情報保護法や労働関係の法令など)との関係は確認していません。境界の考え方と点検項目は編集部の提案です。
人事や顧客対応に AI を組み込むツールの設計・見直し、エージェントの権限設計は、開発・AI・自動化のご相談からお問い合わせください。








