「社内アンケートで欲しい機能を全部聞いて、それを盛り込んでサイトをリニューアルした。なのに、ほとんど使われていない」——制作会社を変えて相談に来られる経営者から、よく聞く話です。要望はちゃんとヒアリングした。言われた機能は全部載せた。それでも成果が出ない。ここには、リニューアルが滑る典型的な落とし穴があります。人が「欲しい」と口にすることと、実際に「やること」は、しばしば一致しないのです。
Smashing Magazine の Four Levels Of Customer Understanding は、この食い違いを整理する枠組みを提示しています。人が「言うこと・感じること・考えること・やること」は別物であり、表面的な要望の下にある動機や根本原因まで降りないと、本当に効く設計はできない——という考え方です。発注前のヒアリングこそ、サイト制作の成否を最も大きく左右する工程だと、私たちは考えています。
なぜ「聞いた通りに作る」と外れるのか
ユーザーや社内から集めた要望をそのまま実装すると外れやすいのは、要望が次の 4 つの階層のうち、たいてい一番上だけを写し取っているからです。
| 階層 | 何が見えるか | どう集めるか |
|---|---|---|
| 言うこと | 表明された要望・建前 | アンケート・ヒアリング |
| 感じること | 不満・不安・期待などの感情 | インタビュー・問い合わせ内容 |
| 考えること | 判断の基準・比較している選択肢 | 深掘り質問・営業現場の声 |
| やること | 実際の行動・離脱・回遊 | アクセス解析・ヒートマップ |
「言うこと」だけを頼りに作ると、社内政治や建前で膨らんだ機能リストができあがります。一方、「やること」をアクセス解析で見ると、ユーザーは要望されたはずの多機能ページを素通りし、ごく一部の導線に集中していた——というズレが頻繁に見つかります。4 階層を行き来して初めて、「言われた要望」と「実際に必要なもの」の差が埋まります。
「やること」のデータと「言うこと」を突き合わせる
実際にあるサービス業のクライアント(社名は伏せます)のリニューアルでは、社内の要望リストには「採用情報を充実させたい」「実績を細かく分類したい」が並んでいました。ところが既存サイトのアクセス解析を見ると、流入の大半は特定の 1 サービスの料金ページに集中し、採用ページの滞在はごくわずか。「言うこと(採用を強化したい)」と「やること(みんな料金を見に来ている)」が真逆だったのです。
このときやったのは、要望をいったん脇に置き、料金・問い合わせ導線を主役に据え直すことでした。採用情報は否定せず、優先度を下げてシンプルに残す。結果、問い合わせ完了率が改善しました。要望を捨てたのではなく、4 階層で見て優先順位を組み替えたわけです。こうした上流の捉え方は、AI 時代の要件定義を扱った Spec・Context・Harnessで発注者が失敗しない要件定義(GH Media) とも地続きの話です。
発注者・制作者の双方で使える「4階層チェック」
この枠組みは、発注する側にとっても制作会社を見極める物差しになります。提案を受けたとき、次を確認してみてください。
- 提案の根拠が「言うこと」(社内要望・なんとなくの流行)だけになっていないか
- 既存サイトの「やること」(アクセス解析・離脱箇所)を見た上での提案か
- ユーザーの「感じること・考えること」(不安・比較している競合)に触れているか
- 機能を足す提案と同じくらい、削る・優先順位を下げる提案があるか
「言われた通りに全部作ります」という制作会社より、「このデータを見ると、この要望は後回しにすべきです」と言ってくれる相手のほうが、結果的に成果に近づきます。制作会社の選び方そのものは 失敗しないWeb制作会社の選び方(GH Media) に整理しました。リニューアル全体の進め方は コーポレートサイトリニューアルガイド(GH Media) も参考にしてください。
まず、既存サイトの「やること」を見るところから
新しいサイトの要望を固める前に、いまのサイトでユーザーが実際に何をしているかを見てください。アクセス解析の上位ページと離脱箇所には、アンケートには出てこない本音が表れています。私たちは受託で、この「言うことと、やることのズレ」を解析データから可視化し、機能リストを優先順位付きの設計に変換するところからお手伝いしています。