毎年ほぼ同じ金額だった Microsoft 365 の更新見積もりが、今年は一割以上高くなっていた。人数は変えていないのに、です。2026 年 7 月 1 日に Microsoft 365 の法人向けプランの値上げが発効し、既存契約には 7 月 1 日以降に迎える契約更新日から順に新価格が適用されるため、この「見積もりを開いて驚く」瞬間は、これから一年かけて各社を順番に回っていきます。このタイミングで Google Workspace への乗り換えが頭をよぎった経営者・IT 担当者も多いはずですが、いま比較の物差しにすべきは基本料金の差だけではありません。Microsoft も Google も、この一年で料金体系を「AI 込み」に再編し終えました。見るべきは、自社の使い方を前提にした AI 込みの総コストです。
まず「自社がいつ、いくら上がるのか」を確定させる
値上げと聞くとすぐ乗り換え検討に飛びつきたくなりますが、最初にやるべきは自社への影響額と時期の確定です。今回の改定は全プラン一律ではなく、対象と値上げ幅がプランごとに異なります。
| プラン | 改定前 | 改定後 | 値上げ率 |
|---|---|---|---|
| Business Basic | $6.00(約900円) | $7.00(約1,050円) | 約17% |
| Business Standard | $12.50(約1,870円) | $14.00(約2,100円) | 約12% |
| Business Premium | $22.00(約3,300円) | 据え置き | — |
| Microsoft 365 E3 | $36.00(約5,400円) | $39.00(約5,850円) | 約8% |
| Microsoft 365 E5 | $57.00(約8,550円) | $60.00(約9,000円) | 約5% |
※ 1ユーザーあたり月額(年間契約)。円表記は Microsoft 直販のドル建て価格からの税抜換算の参考値で、実際の請求額は契約経路(直販・代理店)や為替反映、税で変わります。
ポイントは三つ。中小企業の主力である Business Basic / Standard ほど値上げ率が大きいこと。Business Premium と Office 365 E1 は据え置きで、全プランが上がるわけではないこと。そして既存契約への適用は 7 月 1 日以降に迎える契約更新日からであること。更新日が来年 5 月の会社には、まだ 10 か月の検討期間があります。自社の更新日を確認すれば、慌てて決めるべきか腰を据えて比較できるのかが、まず分かります。
もう一つ見落とせないのは、今回の改定が機能追加とセットになっている点です。全プランで Copilot Chat の対応範囲が広がり、メール・予定表への対応や Office アプリ内でのエージェント利用が追加されます。E3 / E5 では Intune の上位機能なども標準化されるため、該当機能を有償アドオンで買っていた会社には実質的な負担減になる面もあります。「AI とセキュリティを標準に組み込む代わりに基本料を上げる」再編だと理解すると、次の比較軸が見えてきます。
Google Workspace 側も「AI 込み」への再編を終えている
では Google Workspace は安いままなのかというと、話はそう単純ではありません。Google 側も一足先に、同じ方向の再編を済ませています。
Google Workspace は 2025 年、それまで 1 ユーザー月額 2,000 円超の有償アドオンだった Gemini の AI 機能を全プランに標準搭載し、それに伴って基本料金を改定しました。さらに、10 名以下の小規模組織に対する旧価格の猶予措置も、2026 年 1 月以降の契約更新日から順次終了しています。少人数だから旧価格のまま、という抜け道はもうありません。
2026 年 7 月時点の公式価格は、年間契約で Business Starter が 800 円、Business Standard が 1,600 円、Business Plus が 2,500 円(いずれも 1 ユーザー月額)。この金額に Gemini が含まれ、Standard 以上ならドキュメント・スプレッドシート・スライド・Meet といった各アプリの中で AI を使えます。どのプランでどこまで使えるかは、Gemini のプラン選定の判断軸を整理した記事で扱ったとおりです。
つまり 2026 年は、Microsoft と Google の両方が「AI は基本料金に含める。ヘビーな使い方だけ追加課金」という体系に揃った年です。数年前の比較記事の多くは AI 抜きの基本料で並べていますが、その物差しはもう現実に合いません。
AI 込み総コストで並べ直すと、構図が変わる
両者の料金構造を AI を含めて並べると、違いがはっきりします。
| 観点 | Google Workspace | Microsoft 365 |
|---|---|---|
| 標準プラン(1ユーザー月額・年間契約) | Business Standard 1,600円 | Business Standard 約2,100円(改定後の税抜参考値) |
| 標準プランに含まれるAI | Gemini(Standard以上で各アプリ内利用が可能) | Copilot Chat(今回の改定で対応範囲が拡大) |
| フル機能のAIを使う場合 | 利用枠が足りない人にだけ AI Expanded Access(月額20ドル・約3,000円)を追加 | Microsoft 365 Copilot ライセンス(月額4,497円・税抜)を対象者に追加 |
| エージェント型AI | Gemini の利用枠内 | Copilot Cowork(Copilot ライセンス保有者向け・クレジット従量課金) |
一言で言えば、Google Workspace は「標準プランに実用レベルの AI が入っていて、足りない人だけ枠を広げる」、Microsoft 365 は「入口の Copilot Chat は広がったが、Word や Excel の中でフルに AI を使うなら 1 人月額 4,497 円の別ライセンスが要る」という構造です。
社員 30 名で「AI をしっかり使うのは 10 名」という会社で試算してみます。Microsoft 365 Business Standard は改定後参考値で月額約 63,000 円、Copilot 10 名分を足すと合計およそ月 10.8 万円。同じ構成を Google Workspace Business Standard で組むと基本料は月 48,000 円で Gemini は全員が使え、仮に利用上限に当たるヘビーユーザー 3 名に AI Expanded Access を足しても合計およそ月 5.7 万円。この前提なら差は年間で約 60 万円です。
ただし、この試算は「AI を誰にどこまで配るか」で大きく振れます。Copilot を誰にも配らなければ Standard 同士の差は 1 人月 500 円程度まで縮まり、全員に配れば差は月 10 万円を超えます。総コストの答えは料金表の中ではなく、自社の「誰が AI をどれだけ使うか」の中にあるのです。
コストの読みやすさという観点も加わりました。6 月 16 日に一般提供が始まった Copilot Cowork は、時間のかかる作業を委任できるエージェント型 AI ですが、料金は Copilot ライセンスに加えてクレジット消費型の従量課金です。使わせ方のルールを決めずに展開すると月々の請求が読みにくくなります。定額の範囲で AI を使わせたい中小企業にとって、この違いは金額そのものと同じくらい効いてきます。
「安くなるから移行」だけで決めると失敗する
ここまで読むと Google Workspace が有利に見えるかもしれませんが、受託で移行のご相談を受ける立場から言うと、コスト差だけを理由にした移行は高い確率で揉めます。見積もりの差額より先に、三点を確かめるべきです。
一つ目は、デスクトップ版 Office への依存度。Microsoft 365 Business Standard にはデスクトップ版の Word / Excel / PowerPoint が含まれますが、Google Workspace にはありません。取引先と行き来する複雑な Excel や、マクロで動く受発注・集計業務が残る会社では、ここが移行の壁になります。「デスクトップ Office が本当に必要な人を数えて、その分だけ Microsoft のライセンスを残す」併用構成が現実解になることも多いです。
二つ目は、移行作業そのものの急所。過去メールを失わずに移せるか、MX レコードの切り替えでメールを止めないか、ファイルの移し先をどう設計するか。段取りを誤ると業務が止まる部分で、Microsoft 365 から Google Workspace への移行で事故りやすい急所をまとめた記事で詳しく扱っています。移行コストは初年度だけの費用として、ランニングの差額と分けて見積もるのが筋です。
三つ目は、そもそも何のために乗り換えるのか。値上げはきっかけであって、機能・運用面の向き不向きは従来どおり存在します。働き方との相性を含めた機能比較はGoogle Workspace と Microsoft 365 の比較記事に譲りますが、「請求額への驚き」を「自社の情報基盤をどう設計するか」という問いに翻訳できたとき、初めて移行は成功します。
モデルケース: 更新月を機に「全員一律」をやめる
判断の流れを具体的にするため、モデルケースで考えてみます。社員 30 名弱の卸売業。「7 月以降の更新で Microsoft 365 の請求が上がる」と代理店から案内が届き、これを機に Google Workspace への乗り換えを検討し始めた——このとき経営者の頭にあるのは、たいてい「全員まとめて安い方へ」という単純な引っ越しのイメージです。
こうした会社で見積もり比較の前に全員分の利用実態を棚卸ししてみると、マクロ入りの Excel で受発注と在庫集計を回しているのは営業事務の数名だけで、大半はメール・カレンダー・共有ファイルの閲覧が中心——という構図が珍しくありません。一方で「AI を業務に使いたい」という要望が営業や企画から出ているのに、Copilot ライセンスの追加予算は見送られ続けている。値上げの案内は、この放置されていたねじれを表に出すきっかけでもあります。
この場合の現実解は、全員一律の移行をやめることです。マクロ業務を持つ数名だけデスクトップ版 Office を使える Microsoft のライセンスを残し、他のメンバーを Google Workspace Business Standard へ移す併用構成にする。メール・カレンダー・ファイル共有の土台は Google 側に集約し、Gemini は標準搭載の範囲で全員が使える形です。この構成なら、値上げ後の全員分を払い続けるより月々の負担は下がり、見送られていた「AI を全員に」も追加ライセンスなしで実現できます。効くのは安い方を選ぶことではなく、値上げをきっかけに「誰に何が要るか」を数えてから構成を組み直すことです。
更新日までにやるべきことは二つ
まず、自社の契約更新日と契約経路を確認すること。新価格が効くのは 7 月 1 日以降の更新日からなので、更新日までの期間がそのまま検討に使える時間です。直販か代理店かで金額も交渉余地も変わります。次に、AI を含めた利用実態を棚卸しすること。デスクトップ Office が本当に必要な人は何人か、AI を日常的に使いたい人は誰か。この二つの数字が出れば、「M365 のまま構成を最適化する」「Google Workspace へ移る」「併用する」のどれが自社に合うか、見積もりを取る前に大枠が見えます。
更新見積もりを見て乗り換えを迷っている、AI 込みでどちらが自社に合うか判断できない、移行するとして業務を止めない段取りが分からない——そうしたお悩みがあれば、グリームハブの IT・Google Workspace 無料相談からお気軽にご相談ください。現在の契約内容と利用実態のヒアリングから、AI 込みの総コスト比較、併用も含めた構成のご提案、移行する場合の段取りづくりまで、無理のない範囲でご一緒します。
Sources
- 2026年7月実施:Microsoft 365 法人向け製品の価格改定について - Alternative Architecture DOJO
- Microsoft 365 価格改定のお知らせ(2026年7月以降) - NTTドコモビジネス
- 7月から改定 – Microsoft 365 の新価格と新機能 - 365Room
- Microsoft 365 Copilot プランと価格 - Microsoft 公式
- Copilot Cowork の一般提供を開始 - Microsoft Source Asia
- 柔軟な価格プラン オプションの比較 - Google Workspace 公式
- 【2026年1月〜】Google Workspace価格改定、10名以下の組織も対象に - office masui
- AI Expanded Access - Google Workspace ヘルプ