「受注が決まると、まず見積ソフトから受注データを作って、次に受注管理のスプレッドシートに転記して、請求のタイミングで会計ソフトにもう一度入れて、月末に売上集計用の別シートにも入れています」——製造業で受注事務を担当している方に業務の流れを聞いたとき、同じ顧客名と同じ金額が4回打ち込まれていました。
この会社は決してツールに投資していないわけではありません。むしろ逆で、見積・受注・会計それぞれに専用のSaaSを入れています。一つずつは良い道具です。にもかかわらず、担当者の手元では転記作業が増えました。道具を足した結果、人の仕事が増えるという現象が起きています。
Smashing Magazineがこの構図を的確に言い表していました。ユーザーが求めているのは、もっと多くの道具ではなく、シームレスな連携である、と(Users Don’t Need More Tools: They Need Seamless Integrations — Smashing Magazine)。
「ツールが足りない」ではなく「繋がっていない」
この感覚は現場の思い込みではなく、数字にも出ています。SaaSを利用している企業でITサービスの導入・選定に関わる536名を対象にした調査では、86.9%がSaaSのデータ連携に課題を感じているという結果でした(BizteX 調査レポート(2024年))。
課題の内訳が実態をよく表しています。最も多かったのが「部門ごとに異なるSaaSを利用しているため、部門間のデータ連携ができていない」で39.9%。次いで「データ連携が複雑化し、全体像を把握できない」が35.4%、「異なるSaaS間でのデータやステータス管理の一元化・同期ができていない」が35.3%でした。
並べてみると、上位3つはどれも「機能が足りない」という訴えではありません。機能はある。それぞれの部門が、それぞれに適した道具を選んだ結果として繋がっていない、という訴えです。
ここを読み違えると、投資の方向を間違えます。「業務が非効率だ」という声を受けて、より高機能な統合型のツールを検討し始める——という流れは自然ですが、多くの場合、乗り換えコストを払って同じ問題に戻ります。部門ごとの都合は乗り換えても消えないからです。
手動のCSVが4分の1以上残っている理由
同じ調査で、連携の方法も聞かれています。iPaaSもしくは同様の機能が47.9%、スクラッチ開発したプログラムが46.5%、そしてCSVのエクスポート/インポートなどで手動連携しているという回答が26.7%ありました。
4社に1社以上が、いまも人の手でファイルを書き出して読み込んでいます。これは怠慢ではなく、合理的な選択の結果であることが多い。手動CSVには、他の方法にない強みが2つあります。壊れないことと、誰でも直せることです。自動連携は、片方のSaaSの仕様変更で静かに止まります。止まったことに気づくのが翌月の締めだったという話は珍しくありません。
とはいえ、手動CSVには限界があります。頻度が上がると人の時間を食い、転記ミスが混ざります。そして何より、その作業を知っているのが一人だけという状態になりやすい。冒頭の会社では、4回入力の手順を完全に把握しているのは担当者一人でした。これは業務効率の問題を超えて、事業継続の問題です。

繋ぎ方は3つ。選び分けの基準は「変更頻度」
繋ぐと決めたあとの選択肢は、実質3つです。
| 方法 | 向いている場面 | 弱点 |
|---|---|---|
| iPaaS・連携SaaS | 有名SaaS同士、単純な項目の受け渡し | 対応コネクタがないと詰む。従量課金が積み上がる |
| スクラッチで連携を書く | 業務固有の変換ロジックがある、社内システムが絡む | 作った人以外が保守できないと負債になる |
| 業務側で入力箇所を1つに寄せる | データの発生源が実質1箇所に絞れる | 部門の運用変更が必要。合意形成に時間がかかる |
選び分けの基準としていちばん効くのは、その業務ルールがどれくらいの頻度で変わるかです。
料金体系や承認フローが年に何度も変わる業務にスクラッチの連携を書くと、変更のたびに開発費が発生します。ここはiPaaSのように設定で変えられる仕組みか、そもそも人が判断する形に残したほうが安い。逆に、10年変わっていない受発注の型に対して従量課金のiPaaSを噛ませ続けるのは、月額を払い続ける理由が薄い。
3つ目の「業務側で寄せる」を軽く見ないでください。入力箇所を1つに減らすのは、技術を使わない連携です。冒頭の会社では、4箇所のうち2箇所は「集計のために別シートに転記していた」もので、集計を元データから直接作る形に変えるだけで消えました。開発費はゼロです。何を自動化する前に、何をやめられるかを見るほうが順番として正しい。
どの業務から手を付けるかの優先順位づけは業務自動化の優先順位とROIで扱いました。あわせて、社内で既に動いているGoogle Apps Scriptのような自作の連携がある場合は、Apps Scriptのレガシー化と保守で書いた「作った人が辞めたあと誰が見るのか」という問題を先に確認してください。
繋ぐ前に、正データをどちらにするか決める
技術的な選択より先に決めておかないと確実に揉めるのが、どちらのシステムのデータを正とするかです。
顧客の住所が見積ソフトと会計ソフトで違っていたとき、どちらに合わせるのか。片方を直したらもう片方も自動で変わるのか、それとも一方通行なのか。この取り決めがないまま双方向の同期を組むと、古いデータが新しいデータを上書きする事故が起きます。復旧はできますが、気づくまでの期間の請求書がすでに出ています。
決め方はシンプルです。その項目を最初に入力する場所を正にする。 顧客の基本情報は営業が最初に入れるところ、請求金額は受注が確定するところ。発生源を正にしておけば、更新の向きが自然に一方向に定まります。双方向同期が本当に必要な項目は、多くの会社で思っているより少ないはずです。
チャットやコミュニケーション基盤のように、道具そのものを寄せる判断が効く領域もあります。この考え方はビジネスチャットの統合で整理しました。
繋がないという選択も残しておく
最後に、逆の話も書いておきます。すべてを繋ぐ必要はありません。
月に1回、5分の転記で済んでいる業務を自動化すると、開発費と保守の対象が増えるだけで回収できません。自動化の対象になるのは、頻度が高いか、間違うと痛いか、属人化しているかのどれかです。この3つに当てはまらない転記は、放っておくのが正解です。
判断の順番としては、まず「やめられるか」、次に「入力箇所を減らせるか」、それでも残るものだけを「繋ぐか」で見る。この順で潰していくと、思っていたより開発が要らないことがよくあります。
今週、業務の入力回数を数えてみる
一つだけ試してみてください。主要な業務を1本選び、同じ情報を何回入力しているかを数える。 冒頭の会社は4回でした。3回以上なら、繋ぐか寄せるかの検討に入る価値があります。
数えるときは、システムだけでなくスプレッドシートも1箇所として数えてください。集計用のシートは、たいてい数え忘れられていて、たいてい一番手間がかかっています。
業務の流れを棚卸しして、どこを繋ぎ、どこをやめるか一緒に整理したい——そうしたご相談は、グリームハブの開発・AI・自動化のご相談で承っています。要件によって最適な構成は変わるため、個別にお見積りします。お問い合わせからご相談ください。