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セル上限が2倍になった今こそ、表計算をやめる線を決める

目次 · 6項目

たとえば「在庫の表を開くのに時間がかかる」という場面を考えます。在庫だけでなく顧客名簿も、案件の進捗も、請求の元データも、すべて同じスプレッドシートの別タブに入っています。

こういうとき、「上限に達したから壊れた」わけではありません。上限のはるか手前で、使い勝手のほうが先に限界を迎えています。

2026年9月10日、Google スプレッドシートのセル上限が1,000万から2,000万に引き上げられ、一般提供が始まりました。迅速リリースのドメインから順次で、計画的リリースは9月28日から、反映まで最大15日程度かかります。新規のファイルだけでなく既存のファイル、Excel や CSV から取り込んだファイルにも適用されます。

上限が2倍になったのは素直に良い変更です。ただし、上限が延びたことで解決する問題と、しない問題は別です。

上限に当たる前に、体感のほうが先に落ちる

セル上限は「これを超えると保存できなくなる」線です。一方、業務で困りはじめる線はもっと手前にあります。

困りはじめるきっかけは、たいていセル数そのものではありません。

  • 式の量。 全行に VLOOKUPARRAYFORMULA が入っていると、1セル触るたびに再計算が走ります
  • 同時編集の人数。 数人が同じシートを開いた状態で、片方が行を挿入すると、もう片方の編集位置がずれます
  • 他ファイルの参照。 IMPORTRANGE でつないだ先が重いと、こちらの表示も待たされます
  • 条件付き書式の範囲。 列全体に指定していると、行が増えるほど負荷が乗ります

つまり、2,000万セルまで入るようになったからといって、1,000万セル入れて快適に使えるわけではないということです。上限の引き上げは、大きなデータを取り込んで加工する場面での余裕であって、日々の業務台帳を大きくし続けてよいという意味にはなりません。

上限が延びても消えない4つの症状

セル数を減らしても、上限を増やしても解決しない種類の困りごとがあります。ここに当たっている場合、対処はファイルの整理ではありません。

誰が何を変えたのか分からない。 変更履歴はありますが、「先月の在庫数がなぜこの値だったか」を業務の言葉で追うようには作られていません。

見せたくない列がある。 単価や原価だけ隠したいのに、シートを分けて IMPORTRANGE でつなぐ運用になり、結局どちらが正なのか分からなくなります。権限はファイル単位が基本なので、列単位の要求とは相性がよくありません。

入力の間違いを防げない。 入力規則で多少は縛れますが、行の挿入や貼り付けで簡単に外れます。空欄と全角スペースが混ざったまま集計されます。

同じ作業を毎月手でやっている。 月初に前月分をコピーして、日付を書き換えて、集計を貼り直す。この手順が担当者の頭の中にしかありません。

これらは容量を増やすだけでは解決しにくい要件です。該当する個数ではなく、事故の影響と現在の対策の実効性で判断します。

セル数と業務の限界を分ける。製品としての容量、業務としての要件を整理した図

表計算のままでいい業務と、そうでない業務

線を引く基準は、データ量ではなく次の3つです。

1つ目は、同時に触る人が何人いるか。 Google スプレッドシートは共同編集を前提にしたサービスで、5人の同時編集が想定外ということではありません。問題は人数だけでなく、同じデータを同時に更新するときの承認、排他制御、整合性をどこまで必要とするかです。

2つ目は、間違いが誰にどこまで届くか。 表の中で完結する間違いなら、気づいた人が直せば済みます。その値が請求書や発注に流れていく場合、入力の段階で止める仕組みが要ります。

3つ目は、その表を何年使うか。 3ヶ月のプロジェクト用なら作り込む必要はありません。5年使う台帳なら、担当者が変わっても引き継げる形にしておく価値があります。

3つとも「重いほう」に当たるなら、システム化を検討する段階です。速度が主な課題なら、作り直す前に今の表を軽くする余地を確認します。列全体への条件付き書式をやめる、使っていないタブを別ファイルに移す、IMPORTRANGE を減らす。この程度で体感が戻ることは珍しくありません。

移すなら、全部を一度に作らない

システム化を決めた場合でも、いきなり全機能を作る必要はありません。段階を踏む方法がいくつかあります。

  • 入力だけ先に切り出す。 集計と閲覧は表計算のまま、入力フォームと検証だけを別に作る。間違いを止めるのが目的なら、ここだけで効きます
  • ノーコードの業務アプリを挟む。 スプレッドシートを裏側のデータとして残したまま、画面と権限だけを作る形です。判断材料はAppSheet で業務アプリを作る範囲にまとめています
  • 表計算の中で完結させる。 一枚の画面で足りるなら、シート上にミニアプリを作る選択肢もあります。どこまで内製で足りるかはスプレッドシート上のミニアプリと内製の境界で扱っています

自動化を Apps Script で書いている場合は、処理時間の制約が先に来ることがあります。分割で済むのか作り直しなのかの判断はApps Script の6分制限にぶつかったときを参照してください。

次にやること

いま業務で使っているスプレッドシートを開いて、同時に編集する人数と、その表の値が社外に出ていくかどうかの2つを書き出してください。

人数が少なくても、個人情報や請求金額を扱うなら厳密な制御が必要な場合があります。人数に一律の境界を置かず、必要な権限・入力検証・監査の条件を書き出しましょう。

容量以外の要件が満たせないなら、その場合に必要なのは、いま表の中で人間が守っているルールを、どこまで仕組み側に移すかの整理です。

業務台帳の棚卸し、表計算のまま続ける範囲とシステムに移す範囲の切り分け、段階的な移行の設計については、グリームハブのIT・Google Workspace 無料相談で承っています。業務の内容と関わる人数によって進め方が変わるため、お問い合わせからご相談ください。

Sources

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鈴木 翔

技術の可能性に魅了され、学生時代からプログラミングとデジタルアートの分野に深い関心を持つ

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