
「共有ドライブの棚卸し、やらなきゃと思ってるんですよ」と言われて、いつからですかと聞くと、半年前から、という答えが返ってきます。
その半年のあいだに、入社が3人、退職が2人、部署の統合が1回。やらなければいけないことは増えているのに、着手できていない項目のリストだけが伸びていきます。アカウント発行と、プリンタが動かないという問い合わせと、月末の請求処理を兼務していれば、そうなります。
ノークリサーチの調査では、中堅・中小企業のうち24.5%が情報システム担当者1名の「ひとり情シス」で、直近2年で3.2ポイント増えています。別の調査では、情シス担当者の約6割が他業務との兼任です。これは能力の問題ではなく、単純に人数の問題です。
「全部見てもらう」か「全部自分でやる」で止まる
外部に手伝ってもらう話が進まない理由は、たいてい選択肢を2つしか置いていないことにあります。
全部お願いする、と考えると金額が大きくなり、稟議が通りません。自分でやる、と決めると、いま止まっているリストがそのまま来月に繰り越されます。この2択のあいだに、実際には切り分けの線が引けます。
線を引く軸を「頻度」で考えると失敗します。「毎日発生することは自分で、たまにしか起きないことは外に」という分け方は、一見合理的に見えて、いちばん危ない仕事を外に出します。たまにしか起きない作業ほど、手順が固まっておらず、間違えたときの影響が大きいからです。
使う軸は、止まったとき・間違えたときに誰が説明する立場になるかです。
3つに分ける
手元に残すもの
社外の人が代わりに説明できない領域です。
- 誰にどの権限を与えるかの判断(作業ではなく決定)
- 退職・異動の情報を受け取る経路
- 監査や取引先から聞かれたときに答える役割
- 特権管理者アカウントの最終的な保有
判断そのものを外に出すと、あとで「なぜこの人にこの権限があるのか」を社内の誰も説明できなくなります。作業は渡せますが、決定は渡せません。
外に出せるもの
手順が書ける作業と、専門知識の要る一過性の作業です。
- 共有ドライブとリンク共有の棚卸し(外部に開いたままのリンクの洗い出しは、量が多いほど外に出す価値があります)
- 退職者アカウントの処理手順の設計(いきなり削除すると何が失われるかを踏まえた手順書づくり)
- セキュリティ設定の現状確認と、あるべき状態との差分出し
- 新機能が届いたときの影響調査
これらは「毎月やること」ではなく「1回きちんとやって、その後は手順に沿って回すこと」です。ひとり情シスにとって最も時間が取れないのが、この「1回きちんとやる」の部分です。
どちらでもないもの
問い合わせ対応です。ここが判断の分かれ目になります。
社内のヘルプデスクを外に出すと、依頼者が社外の窓口に慣れるまでの期間、問い合わせが二重化します。社員は結局、隣にいる情シス担当に聞きます。外に出すなら、窓口を切り替えた事実を経営側から周知してもらうところまでを含めて設計しないと、負荷は減りません。

外に出す順番
いちばん重い作業から出すのではなく、手順書が残るものから出します。
- 現状の可視化。 いま誰がどの権限を持っていて、どこが外部に開いていて、どの設定が既定のままかを一度出してもらう。ここが出ていないと、次に何を頼むべきかを判断できません。
- 止まっている棚卸しを1つ片付ける。 共有ドライブか、アカウントか、外部アプリの接続か。1つ選んで終わらせ、同時に手順書を作ってもらう。
- 手順書に沿った定期作業を渡す。 2で手順が残っているので、渡す範囲を文章で書けます。範囲が書けない依頼は、あとで必ず揉めます。
- 必要なら問い合わせ対応。 ここまで来て初めて、窓口を分ける話が現実的になります。
この順番の利点は、1と2が終わった時点でやめられることです。継続の契約に入る前に、手元には現状把握の結果と手順書が残ります。
契約の前に確認しておく3点
特権管理者アカウントの持ち主。 作業を委託しても、最上位のアカウントは自社が持ちます。委託先には必要な範囲の管理者ロールを割り当てます。ここを渡しきると、契約を切るときに自社のテナントに入れなくなります。
操作の記録がどこに残るか。 誰がいつ何を変更したかを、自社の管理コンソール側で確認できる状態にしておきます。委託先の作業報告書だけを根拠にすると、監査で聞かれたときに一次情報を出せません。
引き上げの手順。 契約を終える場合に、どの手順で権限を戻し、資料をどう受け取るかを最初に決めておきます。業務システムの保守契約でも同じことが言えますが、始めるときの条件より、終わるときの条件のほうが揉めます。
つまずきやすいところ
「詳しい人に丸投げすれば楽になる」は成立しません。 委託先が優秀であるほど、社内の設定は最新の状態に保たれますが、その内容を社内で説明できる人がいない状態が固定されます。月1回でも、変更点の報告を受けて自分で理解する時間を確保してください。
セキュリティ設定を一気に締めない。 現状確認の結果を見ると、直したい箇所が20個くらい出てきます。全部を一度に適用すると、翌日から業務が止まります。設定項目の優先順位を決めて、影響の小さいものから順に当ててください。
次にやること
いま「やらなきゃと思っているが手をつけていない」項目を、思いつく限り書き出してください。5個以上出たら、それは時間の問題ではなく体制の問題です。
書き出したうえで、それぞれに「これは自分が判断すべきことか、手順があれば誰でもできることか」を1行で付けてください。後者に分類された項目が、外に出せる範囲です。
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