「このAIツール、便利なので入れていいですか」と開発メンバーから相談されたとき、判断に必要なのは性能の比較ではありません。そのツールが、顧客から預かったコードをどこへ送るかです。
2026年9月18日に公開された解析で、Z.ai(智谱)のコーディングエージェントZCodeが、ワークスペースのファイルを .git の履歴ごとまとめて暗号化し、Alibaba Cloudのオブジェクトストレージへ送っていたと報告されました。報告では、履歴を書き換えたり消したりした跡(.git/filter-repo、.git/lost-found)まで含まれ、解析者の2つのワークスペースでは、スナップショットの目録に載ったバイト数の93.9%と98.5%を .git が占めていたとされています。復号の鍵はサーバー側にしかなく、利用者は送られた中身を確かめられない形でした。この報告は開発者コミュニティでも議論になりました。
提供元は同日に謝罪し、「コードベースのインデックス」機能のうち、Repo Wikiを生成するときにリポジトリのデータが送られることがあったと説明して、修正済みとしました。9月21日には、v3.14.0でRepo Wikiを削除し、ローカルのリポジトリのスナップショットを作って送る処理を止めたこと、中国信息通信研究院(CAICT)とセキュリティ企業のNSFOCUSによる確認で保存先のデータとバケット自体が削除されたとされたこと、データをモデルの学習に使っていないこと、ソースコードを公開したことを公式アカウントで発表しています。
ここでは事象そのものの是非より、受託や社内開発で同じことが起きたときに何が漏れるのかを扱います。ここまでの経緯は公開された解析と提供元の説明に基づくもので、当社で通信の再現や検証は行っていません。
なぜ「履歴まで」が重いのか
作業中のソースコードが送られることと、.git の履歴ごと送られることは、影響の大きさが違います。履歴には、後から削除したはずのものが残っているからです。
- 一度コミットして慌てて消した接続情報やトークン
- 検証用に置いた顧客データのサンプル
- 途中で放棄したブランチ、差し戻した変更
- コミットメッセージに残る顧客名・案件名・障害の経緯
受託では、この「消したつもり」の部分が秘密保持の対象そのものであることが少なくありません。現在のファイル一覧だけを見て安全と判断すると、実態を見誤ります。
導入前に確認する5点
ツール単位の禁止リストを作るより、確認の型を決めておくほうが続きます。
| 確認する点 | 見るもの |
|---|---|
| 送信の有無と範囲 | 何を、どこへ送るかの明記。作業中ファイルか、リポジトリ全体か |
| 既定値 | 送信が既定でオンか。初回起動時に同意を求めるか |
| 停止できるか | 設定でオフにしたとき、実際に送信が止まるか |
| 保存先と復号 | 保存される国・事業者、利用者側でデータを取り出せるか |
| 契約 | 学習利用の有無、再委託の扱い、削除の依頼手順 |
今回の報告で注目されたのは3つ目です。解析者の環境では、利用者向けの設定(Repository Snapshot Indexing)がオフのままでも、スナップショットが作られ、送信を受け付けた記録まで残っていたと指摘されています。設定画面の表示は、挙動の証明にはならないという前提で確認する必要があります。通信の確認方法はサンドボックスの外向き通信と許可リストで扱っています。
顧客への説明を先に用意する
顧客から「AIを使っていますか」と聞かれたときに答えられる形を、導入前に作ります。使っているツール名、送信先、対象にしているリポジトリの範囲、そして対象外にしているものの4つがあれば、たいていの確認には答えられます。
実務的には、全面禁止も全面許可も続きません。顧客コードを扱うリポジトリと、社内の検証用リポジトリを分け、新しいツールは検証用でしか動かさない運用のほうが現実的です。開発端末側の管理という観点では拡張機能経由の侵害事例も参考になります。
台帳に持たせる項目は多くありません。ツール名とバージョン、導入した端末と利用者、対象にしてよいリポジトリ、送信先、申請日と再確認日。この5項目があれば、後から範囲を答えられます。表計算1枚で始めて、更新されない列は削っていくほうが続きます。
起きた後に必要になるもの
万一、送信が判明したときに聞かれるのは「いつから、どの案件が対象か」です。答えるには、端末ごとのツール導入履歴と、プロキシやエンドポイント側の通信ログが要ります。導入申請の記録がないまま各自がインストールしている状態では、範囲の特定ができません。
AIを使った開発そのものを止める必要はありません。実際の効果と限界については自社コードでAIコーディングが止まる理由にまとめています。止めるべきは、範囲が分からないまま使うことです。
2026年9月24日に、公開されている解析記事と、提供元が公式アカウントで出した説明をWeb検索で確認して整理しました。当社でZCodeの実行・通信解析・再現は行っていません。修正の適用状況や現在の挙動は、利用前に提供元の最新の案内で確認してください。
開発端末で使うツールの棚卸しや、顧客コードの取り扱いルールの整備は、グリームハブへご相談ください。









