「うちのドライブ、もうぐちゃぐちゃで誰もどこに何があるか分からないんです。今度AIが自動で整理してくれる機能が出たと聞いたので、それに全部任せてしまえば片付くんですよね」——先日、社員三十名ほどの会社の経営者からこう相談を受けました。共有ドライブには見積書も契約書も社内資料も提案書も、フォルダの底に何層も積み上がっていて、検索しても古い版と新しい版が混ざって出てくる。誰かが辞めるたびに「あのファイルどこ」と探し回る。そんな状態に長く悩まされてきた人ほど、AIが勝手に片付けてくれるという話に飛びつきたくなります。
気持ちはよく分かります。ですが、ここで一度立ち止まってほしいのです。散らかったドライブをAIに丸投げして整理させると、たいていの中小企業では「前より探せない」「いつの間にか見えてはいけない人にファイルが見えていた」という別の事故に化けます。理由はシンプルで、AIは「どこに何を置くべきか」というルール、つまり情報設計(IA)が決まっていない場所では、それらしく見えるだけのフォルダを量産してしまうからです。本記事では、2026年6月に登場したGoogleドライブの新機能を正しく押さえたうえで、AI整理が本当に効くための土台をどう作るかを、受託で伴走する立場から整理します。
「ファイルを整理」は丸投げ機能ではなく、提案を選ぶ機能
まず新機能の中身を正確につかみます。2026年6月、Googleは「Organize my files(ファイルを整理)」をGoogle Workspaceおよび一部のAIプランで一般提供しました。2025年10月からベータ提供されていたものが正式版になった形です。
この機能がやることは二つです。マイドライブや親フォルダにバラバラに置かれたファイルに対して、Geminiが内容を読み取り、既存の適切なフォルダへの移動を提案する。あるいは、関連するファイルをまとめる新しいフォルダの作成を提案する。対象はPDF、Googleドキュメント・スプレッドシート・スライド、Officeファイル、画像、文字起こしのある動画などです。
ここで誤解されがちなのが、「AIが勝手に整理を確定する」という理解です。実際は違います。Geminiはあくまで移動候補を提示するだけで、受け入れるかどうかはユーザーが完全にコントロールします。ファイルごとに一つずつ確認することも、まとめて一括承認することもできる。つまりこれは「丸投げ機能」ではなく「提案を選ぶ機能」なのです。なお、2026年7月15日までは利用上限が引き上げられる促進期間が設定されており、試すなら今が動きやすいタイミングではあります。
この性質を理解すると、最初の問いが変わります。「AIに任せれば片付くか」ではなく、「AIが出してくる提案を、自社は正しく取捨選択できる状態にあるか」です。判断の基準がなければ、提案された移動先が良いのか悪いのかすら決められません。
設計が無いままAI整理を被せると「それらしいゴミ」が増える
なぜ土台が無いと事故るのか。具体的に何が起きるかを見ておきます。
AIはファイルの中身から「これは見積っぽい」「これは提案資料っぽい」と推測してフォルダを提案します。ここで自社に命名規則も階層のルールも無いと、AIは手元の散らかったファイルから推測できる範囲でフォルダを作るしかありません。結果、「見積書」「お見積り」「Estimates」「2026見積」といった意味の重なるフォルダが乱立したり、本来は案件単位でまとめたいものが書類の種類単位でバラされたりします。人間が「うちは案件IDのフォルダの下に書類種別を置く」と決めていれば一発で寄せられるものを、AIは決め事を知らないので推測で散らす。片付いたように見えて、実態は「それらしいゴミ」が増えただけ、ということが起こります。
もっと怖いのが権限です。共有ドライブは、メンバーであれば中身が原則すべて見える、わりとフラットな権限モデルになっています。そこにAIがファイルを移動させると、移動先フォルダの共有範囲が元の場所と違っていた場合、見えてはいけない人に書類が見える状態が生まれかねません。整理の最中に外部共有のリンクが付いたファイルが別の階層へ移り、誰も気づかないまま社外に見える状態が残る、というのは中小企業で実際に起きやすい事故です。AIは「内容が近いから」という理由で動かしますが、「誰に見せていいファイルか」までは判断しません。
情報設計とは、煎じ詰めれば「どこに・誰の責任で・何を置き・誰に見せるか」の取り決めです。これが文書化されていれば、AIの提案は強力な時短になります。無ければ、AIは混乱を高速に量産する装置になる。順番が逆なのです。
AI整理が活きる土台は、命名規則と階層と権限の三点セット
では、何を先に決めておけばAI整理が味方になるのか。中小企業が最初に固めるべきは、突き詰めると三つです。
一つ目は命名規則です。ファイル名とフォルダ名に、案件ID・日付・書類種別・版数のうち自社に必要なものを、決まった並びで入れる。たとえば案件番号を先頭に置くと決めれば、人もAIも「同じ案件のものはここ」と迷いません。バラバラの命名のまま整理させると、AIは名前から手がかりを得られず内容推測に頼り、精度が落ちます。
二つ目は階層とフォルダの切り方です。ファイルの種類で切るのではなく、業務の単位(案件・取引先・部門など)で切るのが原則です。実際の仕事は一つの案件に見積も提案も契約も議事録も混在しますから、書類種別で切ると「同じ案件なのに別の場所」に散ります。探すときの動線で設計するのが鉄則です。
三つ目が共有権限です。誰がどのフォルダを見られるかを、整理を始める前に決めておく。共有ドライブの限定公開フォルダなどを使えば、特定のフォルダだけ閲覧者を絞ることもできます。この設計があると、AIがファイルを動かしても「どこに移すと誰に見えるか」の安全弁が効きます。
| 整理の前に決めること | 決めておくと防げる事故 |
|---|---|
| 命名規則(案件ID・日付・版数の並び) | 意味の重複フォルダ乱立、版の混在 |
| 階層(業務単位で切る) | 同じ案件のファイルが別々の場所に散る |
| 共有権限(誰がどこを見られるか) | 見せたくない人にファイルが見える権限事故 |
この三点セットは、AIに見せたくないデータが横断要約や検索で漏れないよう締める設計とも地続きです。ドライブのAIによる自動分類・ラベル付けやDLPでの制御は別軸のテーマですが、考え方は近く、ドライブのAI分類・ラベル・DLPの記事で詳しく扱っています。本記事の主題はあくまで「探せる・崩れない」ための情報設計で、こちらは「見せる範囲を締める」ための分類設計。両輪で進めると、ドライブは安全かつ探しやすくなります。
整理の前後で守りを固めておく
情報設計を整えても、整理作業そのものは大量のファイルを一気に動かす行為です。だからこそ、作業の前後で守りも合わせて固めておきます。
整理の前には、現状のバックアップと復元の道筋を確認しておきます。Googleドライブには不審な一括変更を検知する仕組みもありますが、AI整理による大量移動を異常と取り違えないよう、作業のタイミングは管理者が把握しておくのが安全です。万一の取り違えや誤操作に備える観点は、Googleドライブのランサムウェア検知の記事で扱った復旧の考え方とも通じます。整理は「壊れても戻せる」前提で進めるべき作業です。
整理の後には、せっかく整えた構造を社員が崩さない仕組みを用意します。フォルダの入口や命名規則を社内ポータルにまとめておくと、新しく入ったメンバーも迷いません。Google Sitesで社内ポータルを作る記事のように、「どこに何を置くか」を一枚で示す場所があると、整理は一度きりのイベントではなく続く運用になります。AI整理は片付ける力は強いですが、片付いた状態を維持する力は、結局のところ人とルールの側にあります。
事例: AI整理を止めて命名規則から作り直した制作会社
具体例を挙げます。社員二十数名の制作系の会社(社名は伏せます)から、「新しいAIのファイル整理機能を使ってみたら、かえって何がどこにあるか分からなくなった。元に戻したいくらいだ」という相談を受けました。聞くと、共有ドライブの散らかったファイルにそのままAI整理をかけ、提案された移動をほぼ一括で承認したとのことでした。
実際にドライブを拝見すると、症状ははっきりしていました。意味の重なるフォルダがいくつもでき、同じ案件の見積・提案・納品データが書類の種類ごとに別の場所へ散っていました。さらに問題だったのは、外部の協力会社と共有していたフォルダのファイルが整理で別階層へ移り、共有リンクの効き方が想定とずれて、一部のファイルが意図せず広く見える状態になっていたことです。AIは内容の近さで動かしただけで、誰に見せるべきかは考慮していませんでした。
そこで進め方を立て直しました。まず整理を止め、AIに任せる前にやるべきだった土台づくりから着手します。案件番号を先頭に置く命名規則を決め、フォルダは書類種別ではなく案件単位で切り直す方針を固める。外部共有しているファイルを洗い出し、見えていい範囲を権限ごとに整理し直しました。そのうえで、骨組みができたところに限ってAIの「ファイルを整理」を再び使い、提案を一括承認ではなく案件単位で確認しながら寄せていきました。
結果として、社員が「あの案件の契約書」と言われて即座にたどり着ける状態になり、これまで一日に何度も発生していた「ファイルどこ問題」の問い合わせがほぼ無くなりました。外部共有の取り違えも解消しています。いちばん効いたのは、AIをやめたことではありません。AIに任せる順番を、設計を固めた後ろに変えたことです。土台ができてからのAI整理は、手作業では何日もかかる移動を一気に片付けてくれる、頼れる相棒に変わりました。
まず自社の「置き場のルール」が言葉になっているか確かめる
AI整理を検討するなら、機能を試す前に一つだけ確かめてください。自社に「どこに・誰の責任で・何を置き・誰に見せるか」のルールが、頭の中ではなく言葉として存在しているかどうかです。
このルールが言葉になっていれば、AIの提案は良し悪しを判断できますし、整理は一気に進みます。逆に、ルールが誰かの頭の中にしかない、あるいはそもそも無いなら、まずそこを作るのが先です。命名規則を一行決める、フォルダを案件単位で切ると決める、外部共有のファイルを一覧にする。この地味な作業を飛ばしてAIに任せると、片付いたように見えて探せない状態に逆戻りします。順番さえ間違えなければ、新しい整理機能は中小企業にとって大きな武器になります。土台が先、AIは後、です。
散らかったドライブをなんとかしたい、AI整理を使う前に命名規則と権限の設計を固めておきたい、外部共有の取り違えが起きていないか一度点検したい——そうしたお悩みがあれば、グリームハブのIT・Google Workspace無料相談からお気軽にご相談ください。いまのドライブの状態を拝見し、AI整理が活きる情報設計の骨組みづくりから、整理後に構造を崩さない運用の仕組みまでご一緒します。Google Workspaceそのものの全体像を知りたい方はGoogle Workspaceとはの記事、管理者側の設定を押さえたい方はGoogle Workspace管理コンソールの記事も合わせてご覧ください。
Sources
- Google Workspace Updates: Organize My Files in Drive now generally available
- June Workspace Drops: AI updates for Drive, Sheets, & Gmail | Google Workspace Blog
- Let Gemini organize your files - Google Drive Help
- 「Google ドライブ」の散らかったファイルをGeminiが自動で整理してくれるように - 窓の杜
- Best practices and tips for shared drives - Google Workspace Learning Center
- Google Drive Folder Structure: A Simple System That Actually Works (2026) - Overdrive Blog