「他社はAIをどこまで使っているんでしょうか。うちは遅れている気がして焦るんですが、何が正解かも分からなくて」——中小企業の経営者から、こうした相談が増えています。導入するかどうかの議論はもう終わり、問いは「使うか」から「どれをどう使うか」へ移っている。ただ、周りが見えないと自社の立ち位置も測れません。
その手がかりになるのが、アイデンティティ管理サービスのOktaが公開した企業AI利用の実態調査です。2万社以上の匿名化されたアクセスデータをもとにした集計で、印象論ではなく実際の利用に基づいている点に価値があります。結論を先に言えば、市場は「急成長するAI専業」と「巨大な既存基盤を持つ老舗」という二つの速度で動いています。これは、自社が次の一手を決めるうえで示唆に富みます。何から始めるかで迷っている段階の方は、あわせて中小企業のAI導入は「最初の1業務」で決まるもご覧ください。
調査が示した二つの事実
Oktaの調査から、企業のAI利用について二つの対照的な事実が浮かびます。
- 成長率のトップはAnthropic:企業アカウントの伸びが追跡対象の中で最も速く、指標では満点の評価を得ました。2026年春までにOpenAIを企業アカウント数・月間アクティブユーザーの両方で上回ったとされています。
- 総数で最大なのはMicrosoft 365:一方、AI専業として最も伸びたAnthropicでも、アカウント総数はAI機能を組み込んだ既存サービスの代表であるMicrosoft 365の半分に満たず、月間アクティブユーザーは10分の1未満でした。
つまり、伸びの主役はAI専業だが、実際に多くの社員が触れているのは既存の業務ツールに組み込まれたAIという構図です。新興が速く、老舗が広い。この二つは矛盾ではなく、市場が同時に持っている二つの顔です。
なぜ「二つの速度」が生まれるのか
この構図は、企業がAIを取り入れる二つの入り口を反映しています。
| 入り口 | 代表例 | 広がり方 |
|---|---|---|
| 専用ツールを新たに導入する | Anthropic(Claude)など | 目的を持った部署・人から急速に |
| 既存ツールに付いたAIを使う | Microsoft 365、Google Workspaceなど | 全社員へ自然に、広く |
新しい専用ツールは「これで何をしたい」という明確な目的を持つチームから一気に広がります。一方、普段使っているメールや文書ツールに組み込まれたAIは、特別な決断なしに全社員へ行き渡る。どちらが優れているかではなく、役割が違うのです。そして重要なのは、Oktaの分析が示すもう一つの傾向——企業は特定の一社に絞らず、複数ベンダーを併用する方向へ動いているという点です。
この調査から、自社が読み取るべきこと
他社の数字を眺めて安心・焦燥するために読むのではありません。自社の判断に落とすなら、次の三つです。
- 「一社に賭ける」必要はない:市場全体が複数ベンダー併用へ動いています。既存ツールのAIで全社の底上げをしつつ、特定の業務には専用ツールを足す、という組み合わせが現実的です。
- 全社への広がりは既存ツール経由が速い:すでにMicrosoft 365やGoogle Workspaceを使っているなら、そこに付いたAIは全社員に配りやすい入り口です。新規契約より先に、手元のツールで何ができるかを確かめる価値があります。
- 広げる前にルールを一本引く:複数のAIが社内に入るほど、「何を入力してよいか」の線引きが曖昧だと情報漏洩の温床になります。統制の土台は中小企業のAI利用ルール整備に沿って先に作っておくと、後から慌てずに済みます。
焦って一社を全社導入するのではなく、既存ツールで広く底上げしつつ、目的の明確な業務に専用ツールを足す。Oktaの数字は、この二段構えが理にかなっていることを裏づけています。
まず、自社が「どちらの入り口」を使っているか確かめる
他社との比較で分かるのは順位ではなく、自社がどの入り口からAIに触れているかです。今週、自社で使われているAIを一度洗い出してみてください。既存ツールのAIしか使っていないなら目的特化の専用ツールを検討する余地があり、専用ツールばかりなら全社への底上げが手つかずかもしれません。そのギャップが、次の一手のヒントになります。
自社のAI活用が他社と比べてどの段階にあるか整理したい、既存ツールと専用ツールをどう組み合わせるべきか相談したい、広げる前のルール整備を手伝ってほしい——そうしたご相談は、グリームハブの開発・AI・自動化のご相談からどうぞ。現状の棚卸しから、御社に合った組み合わせと進め方まで、実態にあわせてご一緒します。