「毎月のアンケート、自由記述が500件。これを一件ずつ読んで『満足』『不満』『どちらでもない』に振り分けて、さらに『料金の話』『対応の話』『機能の話』でタグ付けする。パートさん2人で丸一日かけています」——ある BtoC サービス企業の運営担当から、こんな話を聞きました。集計そのものより、人間が読んで判断して仕分ける前処理に時間が消えている。これはアンケートに限らず、問い合わせ履歴の分類、取引先リストの表記ゆれ直し、英文メールの要約など、多くの現場で共通する「地味だが重い」作業です。
2026年7月7日から、Google スプレッドシートに Fill with Gemini が段階展開されました。数式を書かずに、選んだ範囲のセルを Gemini に分類・要約・整形させられる機能です。これまで関数やマクロを組める人しかできなかった前処理が、右クリックとドラッグの延長でできるようになります。ただし「便利そうだから全部任せる」で入れると、精度と情報管理の両面でつまずきます。本記事では、何に効くのか・使う前に何を決めるべきかを、導入を検討する発注者の目線で整理します。
Fill with Gemini は「数式を書かずにセルを埋める」道具
Fill with Gemini は、スプレッドシート上ですでに使える AI 関数(=AI() 系)への入り口にあたる機能です。従来は「この列の内容を要約して」とやりたければ関数の書式を覚える必要がありましたが、Fill with Gemini では対象のセル範囲を選び、やってほしいこと(「この意見をポジティブ/ネガティブで分類して」など)を自然文で指示すると、残りのセルが自動で埋まっていきます。
ポイントは、生成(ゼロから作る)ではなく変換(既にあるデータを加工する)が得意なことです。似た機能に、日本語の指示から表そのものを丸ごと組み立てる使い方や、壊れた数式のエラーを直す使い方がありますが、Fill with Gemini が狙うのはその中間——「列に並んだ実データを、意味を読んで一括で仕分け・要約・整形する」領域です。手作業のコピペと目視判断が発生していた工程が、まさにここに当たります。
「作る」より「仕分け・要約・整形」でこそ効く
導入効果が大きいのは、次のような判断を伴う一括処理です。
- 分類・タグ付け:問い合わせ内容を「請求」「不具合」「要望」に振り分ける、アンケートを感情の極性で仕分ける
- 要約:長文のレビューや議事録を一行に圧縮して一覧化する
- 抽出:住所の塊から市区町村だけを取り出す、フリーテキストから会社名を拾う
- 整形・正規化:「(株)」「株式会社」「㈱」が混在した表記を統一する、全角半角を揃える
これらはいずれも、ルールを厳密に書き下すのが面倒で、かといって人が一件ずつ見るには数が多すぎる、という「中間の重さ」を持った作業です。冒頭のアンケート仕分けは、感情の極性分類とテーマのタグ付けを同時にやる典型例で、数百件でも数分で一次仕分けが終わります。関数やマクロで同じことをやろうとすると条件分岐が膨れ上がるため、GAS やマクロによる自動化の前段——「まず人手を減らしたい」段階の受け皿として相性が良いのです。
使う前に管理者が決めておく3つのこと
現場が使い始める前に、情報システム側で線を引いておくべき点があります。とくに顧客データや個人情報を Gemini に渡すことになるため、無設定のまま解放するのは危険です。
まず、Fill with Gemini は管理コンソールの「Google Workspace のスマート機能(Smart features)」設定に連動します。この設定がオフの組織では、そもそもメニューに表示されません。逆に言えば、この設定と Gemini の利用範囲をどう組むかが最初の判断になります。次に、ライセンスによって使用上限が変わります。
| 項目 | 押さえるポイント |
|---|---|
| 表示条件 | 管理コンソールの「スマート機能」設定がオフだと非表示。まず有効範囲を決める |
| 使用上限 | 2026年7月15日から、AI Expanded Access ライセンス保有者に高い上限が付与される |
| データ範囲 | 顧客名・連絡先・売上など、どの列を AI に渡してよいかを部署単位で線引きする |
上限やプランの考え方は、Gemini をどのプランで入れるかのコスト設計と地続きです。全社に一律解放するのか、まず一部部署で試すのかを、ライセンス配分とセットで決めておくと、後から「誰が何に使っているか分からない」状態になりにくくなります。
丸ごと任せると失敗する — 人が残す工程
Fill with Gemini の分類や抽出は、必ず一定の確率で外します。「不満」を「満足」と取り違える、表記統一で固有名詞を壊す、といったミスは避けられません。ここを分かった上で運用しないと、「AI が仕分けたから正しいはず」という思い込みで誤ったデータが下流に流れます。
実務では、次の二段構えが安全です。第一に、検算のためのサンプル監査——AI が付けた分類のうち数十件を人が目視でチェックし、ズレ方の傾向を掴む。第二に、元データを消さない——AI の出力は別列に出し、元の生データは残しておく。そのうえで、毎月確実に発生する定型処理で精度も安定しているものは、次の段階として GAS やワークフローへ「仕組み化」していきます。使い捨ての一括処理は Fill with Gemini、繰り返す定型処理はプログラムで自動化、という住み分けが現実的です。
この「どこまで人が見て、どこから自動化するか」の線引きは、ツールの使い方というより業務設計の問題です。アンケートや問い合わせの前処理をラクにしたいが、顧客データの扱いと精度の担保に不安がある——そんな状況であれば、グリームハブの Google Workspace 活用支援・IT 相談へお気軽にご相談ください。御社のデータの機微度に合わせて、AI に任せる範囲と人が検算する工程を一緒に設計します。