
社内の在庫システムと、外部の物流会社のシステムをつなぐ。要件を詰めていくと、相手方が gRPC で受けたいと言ってくる。ここで、それまで検討していたエッジ側の構成が候補から外れます。
理由は単純で、Cloudflare Workers は2017年の登場以来、サーバーとしては HTTP しか受けられなかったからです。データベースや外部サービスに向けて自分から接続を開くことはできても、HTTP 以外の接続を受け付ける側には回れませんでした。gRPC や独自の TCP プロトコルが要件に入った時点で、素直に仮想マシンかコンテナサービスを選ぶことになります。
2026年8月の Agents Week で、この前提が動きました。
connect ハンドラで TCP を受ける
Cloudflare は Workers と Containers がinbound TCP 接続を受け付けられるようになったと発表しました。新しい connect(socket) ハンドラを通じ、Spectrum 経由でルーティングされます。Worker が HTTP 以外のプロトコルのサーバーになれる、というのが変更の中身です。
その上に載る最初のプロトコルとして gRPC が提供されました。扱いは Containers と Workers で分かれます。
| 実行環境 | gRPC のサポート範囲 |
|---|---|
| Containers | 任意の言語でフル双方向(full-duplex)の gRPC |
| Workers | unary とサーバーストリーミング(gRPC-web の自動変換経由) |
Workers 側は gRPC と gRPC-web を相互に変換するため、既存のクライアントとサーバーに手を入れずに間へ挟める構成が取れます。これは「新規に作り直す」ではなく「既にあるものの前に置く」用途で効きます。
現時点ではすべてプライベートベータです。Cloudflare は次に UDP ベースのプロトコルへ進むとしています。
どういう案件で効くのか
抽象的に聞こえるので、要件の形で挙げます。
1つ目は、既存の gRPC サービスを世界中から使わせたい場合。 330拠点以上のネットワークに gRPC サーバーを配置できるようになります。海外拠点からの接続遅延が課題になっている社内システムでは、素直に効く話です。
2つ目は、HTTP に載せ替えられない外部連携がある場合。 相手のシステムが gRPC 固定で、こちらの都合で REST にしてもらえない。この理由だけでエッジ構成を諦めていた案件が該当します。
3つ目は、機器やデバイスからの常時接続を受ける場合。 ここは TCP の受信そのものが要ります。ただし現時点で提供されているのは gRPC までなので、独自プロトコルを流したい構成は、まだ待ちの状態です。

プライベートベータを要件に入れない
ここが実務上いちばん大事なところです。プライベートベータの機能を、契約する案件の前提に置いてはいけません。
理由は3つあります。提供時期が確約されていないこと。 申し込んでも枠が来る保証はなく、開発着手日を決められません。仕様が変わり得ること。 ハンドラの形も制約も、正式提供までに動く可能性があります。サポート対象外であること。 障害時に頼れる窓口がベータ扱いのままです。
検証として触るのは有益です。技術選定の候補に入れておくのも構いません。ただし、「この機能が来る前提のスケジュール」を引いた瞬間に、その案件はコントロールを失います。 正式提供が半年遅れたときの逃げ道を、契約前に持っておく必要があります。
逃げ道の作り方
実務的には、gRPC を受ける層を差し替え可能にしておくのが確実です。
- プロトコル変換の層を、業務ロジックから分ける。 gRPC を受けて内部の呼び出しに変換する部分を薄く独立させておけば、その層の配置先だけを後から変えられます
- エッジでなくても成立する構成を第1案にする。 コンテナサービスや仮想マシンで先に動かし、エッジ移設は後続の改善として切り出す。先に動くものを作り、速度は後から取りに行く順番のほうが、納期の事故が起きません
- ベンダーロックインの度合いを事前に確認する。
connect(socket)ハンドラは Cloudflare 固有の書き方です。インフラの選定は移行可能性の選定でもあるため、どこまで固有 API に寄せるかを最初に決めてください
HTTP で足りるなら、それが最善
最後に、逆方向の確認も入れておきます。gRPC が要件に入る案件は、実際にはそれほど多くありません。
社内システム同士の連携で、通信量が中程度、リアルタイム性の要求も強くないのであれば、REST か、型を共有できる RPC ライブラリで十分に足ります。Workers 上に HTTP の API を素直に置く構成は今も有効で、扱える開発者の数もこちらが圧倒的に多い。
gRPC を選ぶ理由になるのは、相手方の都合で決まっている場合か、双方向ストリーミングが業務要件そのものである場合です。「速そうだから」で選ぶと、保守できる人を探す段階で詰まります。
次にやること
まず、現在検討中の案件で、HTTP 以外の通信が要件に入っているものがあるか確認してください。 ないのであれば、今回の変更は当面の判断に影響しません。半年後に選択肢が1つ増える、という程度の把握で十分です。
要件に入っているなら、その要件が相手方の固定条件なのか、こちら側の希望なのかを切り分けてください。 希望であれば HTTP に寄せるほうが早く安く済みます。固定条件であれば、エッジ配置は正式提供を待ち、まずは動く構成で立ち上げる段取りを組んでください。
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