
契約書と図面だけはクライアントサイド暗号化(CSE)で保護する、と決めた会社があるとします。方針としては正しい。ところが数ヶ月経つと、暗号化フォルダの更新が止まっていることに気づきます。
理由は単純です。中身を確認するたびに、端末にダウンロードしないと開けなかったからです。 検索結果からファイル名を見つけても、そこから内容を確かめるまでにワンクッション入る。急いでいる人はダウンロードし、ローカルに置いたまま忘れ、次からは暗号化していないフォルダに保存するようになります。暗号化が形骸化するとき、原因はたいてい暗号強度ではなく閲覧の面倒さです。
PDF と画像が、ブラウザのまま開くようになる
Google は2026年8月28日、Google ドライブでクライアントサイド暗号化された PDF と画像ファイルを、ブラウザ上で直接プレビューできる機能をベータとして公開しました。対象ライセンスを持つ管理者がベータへの参加を申し込む形式です。
これまでは、CSE を適用した非ネイティブ形式のファイル(ドキュメントやスプレッドシートではない、PDF や画像などのファイル)は、内容を見るために端末へのダウンロードが必要でした。今回の変更で、権限のある利用者はドライブを離れずに中身を確認できます。
現時点での対象は次の通りです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象サービス | Google ドライブ(提供開始時点ではドライブのみ) |
| 対象ファイル | CSE を適用した PDF と画像形式 |
| 提供形態 | ベータ(対象ライセンスの管理者が申し込む) |
Google ドキュメントやスプレッドシートなどのネイティブ形式は、もともと暗号化したままブラウザで編集できます。今回埋まったのは、その周りに散らばっていた「見るだけなのにダウンロードが要る」ファイル群の穴です。
ダウンロードが減ることが、なぜ効くのか
利便性の話に見えますが、実質はセキュリティの話です。
閲覧のためのダウンロードは、暗号化の外側にコピーを作る行為です。 端末に落ちた瞬間、そのファイルは CSE の鍵管理からも、ドライブの共有設定からも外れます。持ち出しの記録は残っても、その後どう扱われたかは追えません。私物端末や、退職予定者の端末であればなおさらです。
外部共有リンクの棚卸しをやったことがある担当者なら分かる通り、情報が漏れる経路の多くは「攻撃された」ではなく「業務のために誰かがコピーした」です。閲覧のたびにダウンロードが発生する設計は、その経路を自ら量産していたことになります。

それでも CSE の性質は変わらない
ベータの案内で改善されるのは閲覧の動線だけです。CSE を導入するかどうかの判断そのもので挙がる制約は、そのまま残ります。運用に入る前に、この点は分けて考えてください。
- 鍵の管理責任は自社側にあります。 外部の鍵サービスを使う構成である以上、そこが止まればファイルは開けません。Google に復旧を頼めない、というのが CSE の定義そのものです
- 検索は本文まで届きません。 暗号化されたファイルの中身は Google 側から読めないため、全文検索の対象外です。ファイル名の付け方が、そのまま探せるかどうかを決めます
- 外部との共有には相手側の条件が付きます。 誰にでも渡せるリンクとは違う扱いになるため、社外に頻繁に配る資料は CSE に向きません
つまり、プレビューが効くようになったからといって、CSE の対象を広げてよいわけではありません。 変わったのは「対象に入れたファイルの日常的な確認が現実的になった」ことです。
導入済みなら、まず対象範囲を見直す
すでに CSE を使っている場合、今回の変更で見直す価値があるのは範囲の設定です。
閲覧の手間を理由に暗号化の対象から外していたフォルダが、多くの組織にあります。契約書は暗号化したが、添付の図面や検査写真は「毎回開くから」と平文のまま、といった形です。中身の機微さでは同じなのに、扱いが分かれている。この不整合は、プレビューが効くようになった今なら解消できます。
逆に、社外配布が前提の資料まで CSE に入れているなら、そちらは外す方向で検討してください。共有のたびに調整が必要なファイルは、取り出しや移管が必要になった場面でも余分な手間になります。
次にやること
まず、CSE を適用しているフォルダの中で、直近3ヶ月に更新されていないものを探してください。 更新が止まっているフォルダは、たいてい「使いにくいので別の場所に移された」サインです。移った先が平文なら、そこが今の実質的な保管場所です。
そのうえで、ベータへの参加が自社ライセンスの対象かを確認してください。 対象であれば、まず1フォルダで試し、閲覧の動線が変わることを実務担当者に確認してもらうのが確実です。管理者だけで判断すると、現場が使うかどうかは分かりません。
Google Workspace の暗号化・権限設計、機密文書の保管ルール整備、外部共有の棚卸しについては、グリームハブの IT・Google Workspace 無料相談で承っています。扱う情報の種類と社外協業の頻度によって適切な範囲が変わるため、個別にご相談ください。お問い合わせからどうぞ。
Sources
- Preview client-side encrypted PDF and image files directly in Google Drive, now available in beta — Google Workspace Updates
- クライアントサイド暗号化の設定の概要 — Google Workspace 管理者 ヘルプ
- クライアントサイド暗号化のユーザー体験の概要 — Google Workspace 管理者 ヘルプ
- Build a custom key service for client-side encryption — Google for Developers
- Now generally available: Bulk import using client-side encryption and the Drive API — Google Workspace Updates




