「その申請、どの様式でしたっけ」「去年の年末調整のとき、どう処理したか覚えてる人います?」——社員が二十人ほどの会社で、こうした問い合わせが毎回ベテラン社員のところに集まり、その人が席を外すと業務が止まる。相談に来られる中小企業で、いちばんよく聞く困りごとです。マニュアルや規定は一応あるのに、どのフォルダの、どのPDFの、何ページ目に書いてあるかを知っているのが特定の一人だけ。これでは知識が会社の資産ではなく、個人の記憶になってしまっています。
Google が2026年7月16日に発表した「NotebookLM の Gemini Notebook への改称」は、この「探す時間・答える時間」を減らす道具として、中小企業にとって見逃せない変化です。名前が変わっただけの話に見えて、実は「社内資料に根拠を持たせて質問に答えるAI」を、社員が普段開いている入口から使えるようにする動きだからです。本記事では、改称で何がどう変わったのかを整理したうえで、自社の規定やマニュアルをナレッジ基盤に載せる具体的な手順を扱います。
名前が変わっただけではない — 何が「広がった」のか
まず押さえておきたいのは、Gemini Notebook の中核は変わっていないという点です。手元にアップロードした資料(PDF・ドキュメント・スライド・音声など)だけを根拠に回答し、出典のリンクを示す——この「自分の資料の中だけで答える」性質は改称後もそのまま残っています。社内規定や過去の議事録を扱ううえで、ここが崩れないのは重要です。ネット上の一般論を混ぜて答えられては、社内ルールの回答としては使えないからです。
変わったのは、その使いどころが Google の各サービスへ広がったことです。従来は専用の画面を開いて使う独立ツールでしたが、Gemini アプリの中からノートブックを作成・参照できるようになり、両者の内容は同期します。さらに、Google 検索の AI Mode からもノートブックを扱えるようにする方向が示されています。つまり「調べ物のついでに社内資料にも当たる」動線が、普段の入口の中に組み込まれていくということです。加えて、各ノートブックに安全なクラウド上の実行環境が付き、資料をもとにしたデータ分析をその場で行える機能の提供も始まっています。
過去の NotebookLM 時点での基本機能や音声概要(Audio Overview)の使い方はNotebookLM のアップデート解説で、Workspace のナレッジ活用としての位置づけは社内ナレッジをAIで引ける状態にする設計で扱っています。あわせて読むと、今回の改称がどの延長線上にあるかが掴めます。

中小企業が最初に載せるべきは「毎週聞かれること」
新しい道具を前にすると、つい「全社の資料を全部入れよう」と考えがちです。ですがそれは続きません。まず載せるべきは、件数が多くて毎週のように聞かれること、そして答えが文書で決まっていることの二つが重なる領域です。
具体的には、次のようなものが向いています。経費精算や各種申請のルール、就業規則や休暇の申請方法、よく使う取引先ごとの対応手順、製品やサービスのFAQ。いずれも「答えは決まっているのに、毎回人に聞かれる」典型です。逆に、その場の判断が必要な相談事や、まだ文書化されていない暗黙知は、この段階では入れないほうがよい。根拠となる文書がなければ、Gemini Notebook は正しく答えられませんし、無理に答えさせると「それらしいが根拠のない回答」を生む温床になります。
運用のコツは、ノートブックを「経費・申請」「就業ルール」「製品FAQ」のように用途で分けることです。一つの巨大なノートブックに何もかも入れると、回答の精度が落ち、出典もたどりにくくなります。テーマごとに小さく分け、それぞれに関係する社員だけが使う。これだけで、日々の「ちょっと聞きたい」の大半が自己解決に回り始めます。
使い始める前に決めておく三つのこと
技術的な設定より先に、運用の約束事を決めておくほうが失敗しません。ここを飛ばすと、便利になるどころか「古い情報を答えるAI」を社内に増やすことになります。
| 決めること | なぜ必要か | 最低限のやり方 |
|---|---|---|
| 誰が資料を更新するか | 古い規定のまま答え続けるのを防ぐ | ノートブックごとに更新担当を一人決める |
| 何を入れて何を入れないか | 機微情報の入れすぎを避ける | 人事評価・個人情報の扱いを事前に線引き |
| 回答をどこまで信じるか | 出典未確認のまま社外へ使うのを防ぐ | 重要判断は必ず出典リンクを開いて確認 |
とくに一つ目の更新担当は要です。規定が改定されたのに古いPDFを載せたままだと、AIは自信満々に古いルールを答えます。人が答えていたころは「それ去年までの話だよ」と誰かが気づけましたが、AIは指摘された資料の範囲でしか判断しません。「資料を差し替える人を決めておく」という地味な一手が、精度をいちばん左右します。
プランと料金の前提を誤解しない
導入前に確認しておきたいのが、どのプランで何が使えるかです。Gemini Notebook 自体は幅広く提供されていますが、クラウド実行環境を使ったデータ分析など一部の新機能は、上位のAIアクセスを持つプランから順に開放されており、対象は数週間かけて広がっていく形が案内されています。
ここで大切なのは、自社の契約している Google Workspace のプランで「いま何が使えるのか」を、思い込みでなく管理画面と公式の提供状況で確認することです。プランごとの Gemini 関連機能の違いは動きが速く、記事や人づての情報だけで判断すると実態とずれます。Workspace の Gemini 機能全体の使い方はGoogle Workspace の Gemini 活用ガイドにまとめていますので、あわせて自社プランの対応状況を照らし合わせてください。
なお、社内ナレッジのAI化は「入れれば終わり」ではなく、載せる資料の整理と更新の運用がついて回ります。どのプランが自社に合うか、どの資料から載せると効果が出るかの見極めは、要件によって変わります。
まず「毎週聞かれる一つ」から始める
Gemini Notebook への改称は、社内資料に根拠を持たせて答えるAIが、社員の普段の入口に近づいてきたという変化です。とはいえ、全社導入をいきなり狙う必要はありません。最初の一歩は、いちばん頻繁に聞かれている一つのテーマ——多くの会社では経費精算か申請手続き——を選び、その規定を一つのノートブックに載せ、更新担当を一人決めることです。
これだけで、その領域の問い合わせが人から自己解決へ移り始め、ベテランが席を外しても業務が止まらなくなります。そこで手応えを掴んでから、次のテーマへ広げていく。小さく始めて、更新の運用が回ることを確かめながら育てるのが、情シス専任のいない会社にとって最も無理のない進め方です。
どの資料から載せると効果が出るか、機微情報の線引きをどう引くか、自社プランで何が使えるのか——このあたりで迷ったら、グリームハブのIT・Google Workspace 無料相談からお気軽にご相談ください。社内ナレッジの棚卸しから、載せる順番の設計、更新が回る運用ルールづくりまで、御社の実情にあわせてご一緒します。