
取引先への案内メールを Gemini に下書きさせている担当者から、こんな相談を受けたことがあります。「毎回そこそこの文章は出てくるんです。ただ、ある日は妙にかしこまっていて、次の日はカジュアルで、署名の形も違う。結局こちらで整えるので、自分で書くのと変わらない気がしてきました」。
同じ人が、同じ用途で、同じツールを使っているのに出力が揃わない。原因は Gemini の性能ではなく、指示が会話ごとに消えていることにあります。「丁寧すぎない敬語で」「箇条書きは使わない」といった条件を毎回口頭で足しているうちは、足し忘れた日の出力だけ形が変わります。
この「毎回言い直す」を止めるための設定がカスタム指示で、これまでは Google ドキュメントの中でしか使えませんでした。2026年9月2日、対応範囲がドライブ・チャット・スライド・スプレッドシート・Gmail に広がっています。
一度書けば、他のアプリでも同じ条件が効く
カスタム指示は、回答のトーンや書式についての条件を登録しておく仕組みです。登録しておけば、以降のやり取りに自動で反映されます。
今回の拡大で実務的に効いてくるのは、登録がどのアプリからでもでき、登録した内容が対応アプリ間で共通して適用される点です。ドキュメントで「社外向けの文章は常体を使わない」と決めておけば、Gmail で下書きを作るときにも同じ条件が乗ります。アプリごとに設定し直す必要はありません。
展開は 2026年9月2日から、即時リリースドメイン・計画的リリースドメインの両方で最大15日かけて段階的に行われます。設定画面が見当たらない場合は、まだ順番が回ってきていないだけの可能性があります。
書いて効くもの、書いても効かないもの
ここを取り違えると「設定したのに変わらない」という結論になります。カスタム指示が引き受けるのは出力の形であって、内容の正しさではありません。
| 書く内容 | 効くか | 補足 |
|---|---|---|
| 「常体は使わない」「絵文字を入れない」 | 効く | 文体・書式の条件 |
| 「結論から書き、理由は後に置く」 | 効く | 構成の型 |
| 「箇条書きは3つまで」 | 効く | 分量・形式の制約 |
| 「弊社の料金は◯◯です」 | 効かせるべきでない | 事実はソース側で持つ |
| 「A社の担当者は◯◯さん」 | 書かない | 個人情報を設定に置かない |
事実の供給は、カスタム指示ではなくソースの指定で行う領域です。ドライブ上のファイルや Gmail のスレッドを参照させる機能が別にあり、ドライブの「Gemini に相談」でソースを指定するほうが、結果として間違いが減ります。カスタム指示に社内の事実を書き込むと、その事実が古くなったときに誰も気づけません。

これは個人の設定であって、社内ルールではない
導入を検討するときに一番誤解されやすいのがここです。カスタム指示は利用者ごとの設定です。営業部の10人が同じ書式で文章を出すようにしたければ、10人がそれぞれ登録する必要があります。
つまり「部門の文書ルールを一箇所で決めて全員に配る」用途には、そのままでは向きません。組織として揃えたい場合は、指示そのものを配れる形にしている仕組み——Workspace Studio のスキルを共有してチームの資産にする——のほうが目的に合います。
実務的な落としどころは、この2階建てです。
- 個人の癖(常体を使わない、署名の形)はカスタム指示に置く
- 部門で揃えたい型(報告書の構成、見積書の但し書き)は共有できる仕組みに置く
1だけで済ませようとすると、人が増えるたびに口頭で伝える運用に戻ります。
管理者が先に決めておくこと
利用者側の設定とはいえ、情シス側で確認しておく点が2つあります。
ひとつは対象エディションの確認です。Gemini in Workspace の機能は契約プランによって使える範囲が変わるため、「一部の人だけ設定画面が出ない」という問い合わせが来る前に、自社の契約でどこまで含まれるかを見ておくと手間が減ります。
もうひとつは設定に何を書かせないかの周知です。カスタム指示は本人が自由に書ける欄なので、顧客名・担当者名・未公開の価格といった情報がそのまま置かれるリスクがあります。ここは技術で止めるより先に、AI利用時のデータの扱いを一度決めておくほうが早く効きます。
そもそも「Gemini を入れたが使われていない」状態であれば、カスタム指示の話はまだ早い段階です。使われない原因は機能ではなく、何に使うのかが決まっていないことにあります。
次にやること
自分が過去1ヶ月に Gemini へ出した指示のうち、2回以上繰り返して書いた条件を書き出してください。3つ以上あれば、それがそのままカスタム指示に入れる内容です。
そのうえで、書き出した条件に社名・人名・価格が含まれていないかだけ確認してください。含まれているなら、それは設定ではなくソース側に置く情報です。
Google Workspace の AI 機能をどこまで開放するか、部門ごとの利用ルールの決め方、既存の文書運用との突き合わせについては、グリームハブの IT・Google Workspace 無料相談で承っています。契約エディションと現在の運用によって取れる構成が変わるため、お問い合わせからご相談ください。




