AI利用のルールを作ろうとして、まず「社員がいま、どの生成AIサービスを使っているのか」を聞かれ、答えられなかった。アンケートを取っても、ブラウザで一度開いただけのサービスまでは書いてもらえません。会社のChromeをGoogle管理コンソールで管理しているなら、その利用状況をブラウザ側から集められないか——本記事はこの疑問に答えます。
Chrome を管理するための Chrome Management API の定義に、2026年9月の更新で、SaaS の利用状況を返す3つのメソッドが載りました。管理コンソールでは、Chrome Enterprise Core の機能として「Gen AI and SaaS app usage reporting」が Chrome 150〜151 で順次提供されており、その API 版と見られます。パラメーターの説明には、アプリ名の例として ChatGPT と Gemini が挙がっています。以下では、APIの定義(Discovery文書)の原文と Chrome Enterprise のヘルプ・リリースノートから、何が返り、何を先に設定する必要があるかを確かめ、使い始めるまでの手順と社員への配慮を、編集部の整理・提案としてまとめます。認証情報がないため、APIは実際には呼び出していません。
加わった3つのレポート
10月10日に取得した Chrome Management API v1 の Discovery 文書(revision 20261008)では、customers.reports に次の3つのメソッドがあります。いずれも読み取り専用の GET で、必要なスコープは https://www.googleapis.com/auth/chrome.management.reports.readonly(説明は「See reports about devices and Chrome browsers managed within your organization」)です。
| メソッド | 集計の単位 | 主な項目 |
|---|---|---|
findSaasUsage | アプリ | アプリ名、カテゴリ、訪問回数、利用者数、ブラウザ数、最初と最後の利用日時、コンテンツ転送の件数 |
findSaasUsageBrowsers | ブラウザ(端末) | マシン名、OS、組織部門、そのブラウザで最初と最後に開いた日時 |
findSaasUsageProfiles | プロファイル(ユーザー) | ユーザーのメールアドレス、OS、組織部門、最初と最後に開いた日時 |
Google が公開している Go 向けクライアント(googleapis/google-api-go-client)に保存された定義の履歴では、3つとも2026年9月12日のコミット(df333cb、revision 20260715 から 20260907 への更新)で追加されています。7月15日版の定義にはなく、9月7日版の定義にはある、ということです。開発者向けリファレンスの findSaasUsage のページ(2026年9月8日更新)にも同じ内容が載っています。

それぞれのレポートで返る項目
アプリ単位の一覧(findSaasUsage)
1件ごとに、アプリ名(app)、カテゴリ、開発元の組織名・本社所在地、関連ドメインなどが返ります。利用の量を示すのは次の項目です。
visitsCount: 「Total number of visits to the application.」(訪問の合計回数)distinctUsersCount・distinctBrowsersCount: 訪れた利用者の数とブラウザの数firstNavigationTime・lastNavigationTime: 最初と最後に開かれた日時contentTransferCount: コンテンツ転送の件数。「if available」(取得できる場合のみ)とされています
各件には組織部門の ID(orgUnitId)も付きますが、組織部門ごとに別の行で返るのかは定義から読み取れません。
端末とユーザーへの掘り下げ(Browsers・Profiles)
残りの2つは、アプリ名を app で指定して呼びます。app は「Required. The name of the SaaS application (e.g., ChatGPT, Gemini).」と、必須のパラメーターです。まず findSaasUsage で一覧を取り、気になるアプリの名前を渡して掘り下げる、という順になります。
findSaasUsageBrowsers はマシン名(machine)、端末の ID、OS と版、組織部門を返します。findSaasUsageProfiles は、プロファイルの ID に加えて「Output only. The email of the user.」と説明された email を返します。誰がそのアプリを使ったかが、メールアドレスで分かるということです。
絞り込み・並べ替え・件数
3つとも filter と orderBy を受け付けます。findSaasUsage では org_unit_id、category、last_navigation_time、distinct_users_count などで絞り込め、説明には次の例があります。
(first_navigation_time < "2026-01-31T00:00:00Z" AND last_navigation_time > "2026-01-01T00:00:00Z") AND visits_count > 100
並べ替えは visits_count desc のように「desc」を付けると降順です。1回で返るのは既定で最大100件、上限は200件で、続きは nextPageToken で取ります。
ヘルプとリリースノートで分かること
APIの定義に書かれているのは項目と呼び方までです。ライセンスや事前の設定は、管理コンソールの同名のレポートについて Chrome Enterprise のヘルプとリリースノートに書かれています。ただし、どちらも API には触れていないため、ここに書く条件が API にもそのまま当てはまるかは確認できていません。
必要なライセンス
同じ API の中で、URL の訪問を集計する securityInsights のメソッドには「Requires a Chrome Enterprise Premium subscription. If the customer does not have this subscription, query results will be empty.」と書かれています。SaaS の3つのメソッドには、この一文がありません。
Chrome Enterprise のリリースノートでは、管理コンソールの「Gen AI and SaaS app usage reporting」は「Chrome Enterprise Core changes」の欄にあり、予告の段階では「This report is available for Chrome Enterprise Core (CEC) and Chrome Enterprise Premium (CEP) customers only」と書かれていました。Chrome 147 で Trusted Tester(先行利用の参加者)向けに先行提供され、Windows・Mac・Linux は Chrome 150、ChromeOS は Chrome 151 から順次提供です。Premium が必要なのは、検出した利用を DLP(情報漏えい対策)のルールで制限する部分です。なお、Google Cloud ブログの2026年10月1日の記事は、Chrome Enterprise Premium の機能の一覧に「GenAI and SaaS app reporting」を挙げており、書き方がそろっていません。Chrome Enterprise Core で使える前提で試しつつ、まず自社の環境で空の結果にならないかを確かめるのが安全です。
集計の対象と前提
ヘルプ「View Gen AI and SaaS app usage details」によると、集計の対象は、管理対象の Chrome プロファイルまたは管理対象のブラウザからの訪問です。Edge や Safari、スマートフォンの ChatGPT アプリなど、Chrome 以外での利用は含まれないと読めます。項目名も「navigation(ページを開いた)」が基準で、開いた後に何を入力したかを示す項目はありません。
- 事前の設定: 管理コンソールの[Chrome ブラウザ]>[設定]>[Browser reporting]で「Gen AI and SaaS app usage reporting」を開き、「Enable SaaS usage reporting」が選ばれているか確かめる手順がヘルプにあります(英語版の表記)。既定でオンかどうかは、ヘルプとリリースノートで書き方が異なり、はっきりしません
- 対象のサイト: ヘルプに、集計されるサイトの一覧(chatgpt.com、claude.ai、gemini.google.com、notebooklm.google.com など約130件)が載っています。一覧にないサービスは数えられないと見てください
- 管理者権限: 設定の変更には「Mobile Device Management」、レポートの閲覧には「Chrome administrator」の権限が必要とヘルプにあります。API を呼ぶときに必要な権限は書かれていません
- コンテンツ転送: ヘルプでは「Sensitive content(機密のコンテンツの転送の件数)」と説明されています。API の
contentTransferCountが同じものかは確認できていません
レポートが反映されるまでの時間は、どの資料にも書かれていませんでした。
試してみる手順
ここからは定義をもとにした編集部の提案です。リクエストの例も、認証情報がないため実行していません。
- 会社のChromeを管理下に置く。 まだであれば、管理コンソールで Chrome Enterprise Core を有効にし、登録トークンで Chrome を登録します。手順は拡張機能が野放しのブラウザを、追加費用なしで管理下に置くで整理しています
- 集計を有効にする。 上で触れた「Enable SaaS usage reporting」が選ばれているかを、最上位の組織部門で確かめます
- APIを呼べる状態にする。 Google Cloud のプロジェクトで Chrome Management API を有効にし、上記の読み取り専用スコープでトークンを取ります。顧客の指定は
customers/my_customerが使えます。API に必要な管理者権限は未確認です - アプリの一覧を取る。 期間を区切り、利用者数の多い順に並べます
- 気になるアプリを掘り下げる。 一覧の
appの値をそのまま渡して、端末やユーザーを確かめます
ユーザー単位の掘り下げは、curl では次のようになります。
# 編集部の例(認証情報がないため未実行)。TOKEN は reports.readonly スコープを含むアクセストークン
curl -sS -G "https://chromemanagement.googleapis.com/v1/customers/my_customer/reports:findSaasUsageProfiles" \
-H "Authorization: Bearer ${TOKEN}" \
--data-urlencode "app=ChatGPT" \
--data-urlencode 'filter=last_navigation_time > "2026-09-01T00:00:00Z"' \
--data-urlencode "orderBy=last_navigation_time desc"
毎月の棚卸しをスプレッドシートに残すなら、Apps Script の UrlFetchApp で一覧を書き出す方法があります。
// 編集部の例(未実行)。appsscript.json の oauthScopes に次の3つを加える想定
// chrome.management.reports.readonly / script.external_request / spreadsheets.currentonly
function exportSaasUsage() {
const url = 'https://chromemanagement.googleapis.com/v1/customers/my_customer/reports:findSaasUsage';
const q = { filter: 'last_navigation_time > "2026-09-01T00:00:00Z"', orderBy: 'distinct_users_count desc', pageSize: 200 };
const rows = [];
let token = '';
do {
const params = Object.assign({}, q, token ? { pageToken: token } : {});
const qs = Object.keys(params).map(k => k + '=' + encodeURIComponent(params[k])).join('&');
const res = UrlFetchApp.fetch(url + '?' + qs, {
headers: { Authorization: 'Bearer ' + ScriptApp.getOAuthToken() },
muteHttpExceptions: true,
});
if (res.getResponseCode() !== 200) throw new Error(res.getContentText());
const body = JSON.parse(res.getContentText());
(body.saasReports || []).forEach(r => rows.push([r.app, r.category, r.orgUnitId,
r.visitsCount, r.distinctUsersCount, r.distinctBrowsersCount, r.lastNavigationTime]));
token = body.nextPageToken || '';
} while (token);
if (rows.length) SpreadsheetApp.getActiveSheet().getRange(2, 1, rows.length, 7).setValues(rows);
}
ページの続きを取るときは、ほかのパラメーターを最初の呼び出しと同じにする必要があると定義に書かれています。例では同じ q を使い回しています。結果が0件だった場合は、集計の設定、Chrome の版(Windows・Mac・Linux は 150 以降)、ライセンスも含めて確かめてください。
メールアドレスが出るレポートの扱い
findSaasUsageProfiles は、誰がいつそのサービスを開いたかを返します。使い方を誤ると、社員から「監視されている」と受け取られかねません。編集部としては、取得を始める前に次を決めておくことを勧めます。
- 目的を社員に伝える。 会社として認めるAIサービスを決めるための棚卸しであること、ブラウザで開いたサービスと日時が記録されることを、就業規則やIT利用規程と合わせて知らせる
- 見る人と保存期間を決める。 ユーザー単位のレポートを見られる管理者を絞り、書き出したシートの共有範囲と保存期間を決める
- まずアプリ単位で判断する。 方針を決めるだけなら、利用者数と訪問回数が分かるアプリ単位の一覧で足ります。個人まで掘り下げるのは、機密情報の扱いで確認が必要な場合などに限る
棚卸しの結果は、禁止の一覧より「どのサービスを、どの条件で使ってよいか」を決める材料にします。AI利用のルールの作り方は社内のAI利用が野放しになる前にで、会議に入り込むAI議事録ツールの棚卸しは会議に「見えない参加者」がいるで扱っています。
確認した範囲
2026年10月10日に、Chrome Management API v1 の Discovery 文書(https://chromemanagement.googleapis.com/$discovery/rest?version=v1 、revision 20261008)と、googleapis/google-api-go-client の chromemanagement-api.json の履歴(commit df333cb〔2026年9月12日、3つのメソッドを追加〕)を直接取得して照合し、Google Cloud ブログの Chrome Enterprise の記事2本(2026年4月22日、10月1日)を開いて確認しました。2026年10月16日に、開発者向けリファレンス、Chrome Enterprise のヘルプ「View Gen AI and SaaS app usage details」とリリースノート(Chrome 147〜151)を確認しました(いずれも資料調査)。ライセンス・事前の設定・対象サイトは管理コンソールのレポートについての記述で、API に同じ条件が当てはまるかは確認していません。APIの呼び出し、管理コンソールのレポート画面、API に必要な管理者権限、反映までの時間は確認していません。手順・コード例・社員への配慮は編集部の提案です。
会社のChromeの管理や、生成AIの利用ルール・管理者設定の見直しは、IT・Google Workspace 無料相談からお問い合わせください。
参考資料
- Chrome Management API v1 Discovery 文書
- googleapis/google-api-go-client — commit df333cb(findSaasUsage などの追加)
- googleapis/google-api-go-client — chromemanagement/v1/chromemanagement-api.json
- Google Cloud Blog — The future of browser-based security: Leveraging browser data for proactive defense(2026年10月1日)
- Google Cloud Blog — New ways to navigate the AI era with Google’s enterprise platforms and devices(2026年4月22日)
- Chrome Management API リファレンス — customers.reports.findSaasUsage
- Chrome Enterprise and Education Help — View Gen AI and SaaS app usage details
- Chrome Enterprise and Education Help — Previous release notes








