「四半期に数回、海外の仕入れ先とオンライン会議をするのですが、そのたびに通訳を手配するか、英語ができる社員を一人拘束するかで、日程調整からして大変で」——従業員三十名ほどの卸売業の方から、こんな相談を受けました。翻訳ツールをブラウザで開いて手打ちする方法も試したものの、会話のテンポに追いつかず、結局は片言の英語と身振りで乗り切っているとのことでした。
こうした「言葉の壁で会議のコストが跳ね上がる」悩みに、Google がGemini 3.5 Live Translate という音声翻訳モデルで踏み込んできました。話している最中に、数秒遅れで訳した音声を生成し、しかも話し手の口調や間、声のトーンまで残そうとするのが特徴です。ただ、ニュースの見出しだけを見て「もう通訳はいらない」と早合点すると、導入時につまずきます。いま日本語を話す会社が Google Meet で実際に使える機能は、多くの場合まだ「音声翻訳」ではなく「翻訳字幕」のほうだからです。本記事では、何が使えて何がまだ待ちなのかを正確に切り分け、通訳を減らせる場面とそうでない場面を整理します。
「音声翻訳」と「翻訳字幕」は別物として扱う
まず、二つの機能を混同しないことが出発点です。名前は似ていますが、使える言語も対象ライセンスも違います。
| 機能 | 中身 | 2026年半ば時点で日本語は | 主な使いどころ |
|---|---|---|---|
| リアルタイム音声翻訳 | 話した内容を訳した音声で読み上げる | 一般提供の対象言語にまだ含まれない | 英語⇄欧州主要言語の商談・面談 |
| 翻訳字幕(字幕翻訳) | 発言を字幕として別言語で表示する | 対応言語が広く、実務で使える | 議事の理解・聞き逃し防止 |
TechCrunch の報道やSlator のまとめによると、Google Meet で一般提供が始まった音声翻訳は、当初は英語と、スペイン語・フランス語・ドイツ語・ポルトガル語・イタリア語の相互翻訳から。日本語の音声翻訳は、モデルとしては70以上の言語に対応をうたっていても、Meet の一般提供機能としてはこれからという段階です。
一方で、字幕を別言語に訳して表示する機能は以前から対応言語が広く、日本語話者が英語話者の発言を日本語字幕で追う、といった使い方は今日から現実的にできます。海外会議の「何を言っているか分からない」を消したいだけなら、まず翻訳字幕で十分に効果が出ます。
誰が使えるのか — ライセンスとホストの条件
次に確認すべきは、この翻訳が有料の上位機能だという点です。誰でも自動で使えるわけではありません。
Google の案内では、Meet のライブ翻訳は Google AI Pro / Ultra の契約者、または Google Workspace の Business Standard / Plus、Enterprise Standard / Plus、Frontline Plus、そして Gemini のビジネス向けアドオンを持つユーザーが対象です。実務上ありがたいのは、参加者全員が対象ライセンスを持つ必要はなく、ホスト(多くの場合は会議の主催者)が一人、対象の契約を持っていれば会議全体でその機能が使える設計になっていることです。
つまり中小企業にとっての判断は「全社員を上位プランに上げるか」ではなく、「海外会議を主催する担当者や会議室アカウントを、対象プランに引き上げるか」という小さな単位で始められます。自社が今どのプランにいるかは、Google Workspace 導入の基本設定で触れたプラン構成を起点に、管理コンソールの契約情報から確認できます。
管理者がやること・現場に伝えること
機能を配る前に、管理者側で二つ、現場側で一つ決めておくと混乱しません。
- 管理コンソールで対象機能を有効化する。Gemini 関連機能と同様、組織部門(OU)単位でオン・オフを切り替えられます。全社一斉ではなく、まず海外案件を持つ部署だけに配るのが安全です。組織部門での出し分けは管理コンソールの基本操作の考え方がそのまま使えます。
- どの言語ペアを実際に使うのかを先に確認する。前述のとおり日本語の音声翻訳はまだこれからなので、「英語話者との会議は翻訳字幕で運用、欧州言語圏との会議は音声翻訳を試す」といった具合に、会議の相手ごとに使う機能を決めておきます。
- 現場には「訳が数秒遅れる前提」で話してもらう。AIが訳し終えるまでにわずかな間があるため、早口でかぶせず、一区切りずつ話すと精度も体感も上がります。
通訳を減らせる会議・減らせない会議
最後に、いちばん誤解されやすい線引きです。AI翻訳は「情報を理解する」会議には強く、「言葉の重みが結果を左右する」会議には向きません。
減らせるのは、定例の進捗共有、仕様のすり合わせ、社内の多国籍メンバーの雑談混じりのミーティングなど、多少の訳のブレが致命傷にならない場面です。ここは通訳の手配コストと拘束時間をそのまま削れます。一方、契約条件の最終合意、クレーム対応、法務が絡む交渉のように、一語の解釈が金銭や責任に直結する場では、AI翻訳を「補助」に留め、要所は人の通訳や書面で固めるべきです。訳の遅延や取り違えが起きたときに誰が責任を負うのか、という点は AI を業務に入れるとき共通の論点で、中小企業のAI利用ルール整備で扱った「どこまでAIに任せてよいか」の線引きと同じ考え方になります。
導入する前に確かめたいこと
海外会議のたびに通訳を手配していた会社にとって、Meet の翻訳は明確にコストを下げる機能です。ただし「日本語の音声翻訳がフルに使える」と思い込むと期待外れになります。今日から効くのは翻訳字幕、音声翻訳は英語と欧州言語圏から、という現状を正しく押さえたうえで、まずは主催者アカウントのプランと対象言語を確認するところから始めてください。
自社のプランでどの翻訳機能が使えるのか分からない、海外案件を持つ部署にだけ安全に配りたい、どの会議を通訳ありのまま残すべきか整理したい——そうしたご相談があれば、グリームハブのIT・Google Workspace 無料相談からお気軽にどうぞ。御社の会議の実態にあわせて、プラン設計から管理コンソールの設定、現場への案内までご一緒します。