
「オフィスソフトの費用が毎年上がっているが、増えているのは AI の機能で、うちの現場はそれをほとんど使っていない」——ライセンスの更新時期にこの話が出る会社は、ここ1年で明らかに増えました。実際に使われているのは、見積書を作る、報告書を書く、集計する。10年前とそれほど変わりません。
一方で、AI 機能を切り離した選択肢は現実的なのか、というと判断材料が乏しい。そこに、方針として AI を載せないと明言した製品の新版が出ました。
「あえて載せない」と明言したオフィススイート
The Document Foundation は2026年8月26日、オープンソースのオフィススイート LibreOffice 26.8 をリリースしました。2025年12月から約8か月、206人の貢献者による開発とされています。
このリリースが注目されたのは、新機能の中身以上に、生成 AI 機能を意図的に搭載していないと明示した点でした。文書はリモートのサービスに送信されず、どのコンポーネントもネットワーク接続なしで動作する、という設計方針が公表されています。
Microsoft 365 と Google Workspace が AI 機能を製品の中心に据えて拡張してきたのとは、はっきり逆の方向です。
改善が入ったのは次の3点でした。
| 改善点 | 内容 |
|---|---|
| Paragraph Composer | 両端揃えの行間隔を、行単位ではなく段落全体で調整する組版アルゴリズム |
| 可変フォント対応 | OpenType の可変フォントをネイティブサポート。太さや字幅を1ファイルで調整 |
| Office 互換性 | Microsoft Office 形式のファイルの相互運用性を改善 |
いずれも、書類が書類として整っているかどうかに関わる部分です。AI で文章を生成する話ではなく、生成された文章がきれいに組まれるかどうかの話をしている、という位置づけがはっきりしています。
全社を1つに揃える前提を、いったん外す
ここで「では LibreOffice に全面移行するか」と考えると、たいてい行き詰まります。移行の障害は文書ファイルそのものではなく、その周りにあるものだからです。メール、カレンダー、共有ドライブ、外部との共同編集、Excel の VBA マクロで動いている業務。オフィススイートは、単体のソフトではなく業務基盤の一部として使われています。
現実的なのは、全社を1つに揃えるという前提を外すことです。部署によって必要なものが違うなら、違うものを当てて構いません。
判断の軸は、おおむね次の3つに整理できます。
- 外部と文書をやり取りするか。 顧客や取引先とファイルを往復させる部署は、互換性の問題が直接コストになります。ここは主流のスイートに寄せるのが無難です
- 共同編集が業務の前提になっているか。 複数人が同時に同じ書類を触る運用が回っているなら、そこを崩す移行は割に合いません
- 端末が閉じた環境にあるか。 外部にデータを出せない端末や、ネットワークから切り離した環境では、ネットワーク接続を必要としない設計が単純に有利です

実際に効くのは「全社の一部」
このため、LibreOffice のような選択肢が効くのは、多くの会社で全社ではなく一部です。具体的には、外部と文書を往復させず、共同編集も前提でない使い方をしている端末。製造現場の作業端末、検査機器に接続した PC、閉じたネットワークにある事務端末などが該当します。
そうした端末に有償ライセンスを割り当て続けているケースは、実際によくあります。ライセンスの棚卸しをすると、「文書を開くためだけに使っている端末」が一定数出てくるのが通例です。
逆に言えば、ここを削るために全社の移行計画を立てる必要はありません。棚卸しで出てきた端末に対して、個別に当て直せば済みます。
見落としやすい移行コスト
ただし、当て直す端末を決めたあとにも作業は残ります。実際に手間になるのは、次の3つです。
1つ目は、社内テンプレートの検証です。 見積書や報告書の雛形は、罫線の位置やフォント指定が微妙にずれることがあります。互換性が改善されたとはいえ、ゼロにはなりません。使用頻度の高い雛形を数点、実際に開いて印刷まで確認するのが確実です。
2つ目は、印刷とPDF出力です。 画面上は同じに見えても、ページの改まる位置が変わることがあります。帳票を紙で出す業務があるなら、ここは必ず通してください。
3つ目は、担当者の問い合わせ先です。 操作が分からないときに聞ける先が社内にないと、結局元のソフトに戻ります。対象端末が数台なら、担当を1人決めておけば足ります。
いずれも重い作業ではありませんが、やらずに切り替えると必ず差し戻しになる部分です。
AI 機能を「使っていない」のか「使えていない」のか
もう1点、切り分けておくべきことがあります。AI 機能に払っている費用が無駄なのか、単にまだ使われていないだけなのかは、別の問題です。
前者なら、機能のないプランや製品に寄せるのが正しい。後者なら、寄せた瞬間に競合他社との差が開きます。この見極めを飛ばして「使っていないから安いほうへ」と決めると、あとで戻す作業が発生します。
見分け方は単純で、実際の利用状況を数字で見ることです。 割り当てているライセンスのうち、AI 機能に実際にアクセスしているのが何人か。ほぼゼロなら、それは使っていないのではなく使い方が社内に伝わっていない可能性のほうが高い。Microsoft 365 の値上げを機に比較を始めた会社でも、この切り分けを先にやったかどうかで結論が変わっています。
次にやること
まず、オフィススイートのライセンスを割り当てている端末を一覧してください。 そのうえで「外部と文書をやり取りするか」「共同編集をするか」の2つで印を付けると、どちらも付かない端末が残ります。そこが、今回の話が直接効く範囲です。
そのうえで、AI 機能の実利用者数を確認してください。 ここが低いまま安いほうへ寄せる判断をすると、コストは下がっても、使えるようにする機会をそのまま手放すことになります。
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