社内の申請フォームから Google スプレッドシートに集計が飛ぶ。月初にユーザー一覧を書き出して棚卸しする。こうした Google Apps Script(GAS)を、情シスが1人で何年も回している会社は珍しくありません。誰も触らないので、動いているうちは存在すら忘れられています。
その GAS が、2026年9月末から順に動かなくなる可能性があります。対象は限られていて、データリージョンの詳細設定で、保存先を厳格に制限している組織です。心当たりがある管理者は、9月28日を待たずに確認しておいたほうが安全です。
止まるのは「データの置き場所を絞り込んだ組織」
Google Apps Script は、処理するデータを指定リージョンの内側に留める仕組みへ移行している最中です。その過程で、リージョン化されていない(non-regionalized)サービスが2026年9月から無効化されます。
無効化の対象になるのは、管理コンソールのデータリージョン詳細設定で、ドライブとドキュメントについて「指定リージョン外で処理される機能を無効にする」側のトグルをオンにしている組織です。段階的な展開は2026年9月28日から始まり、全 Google Workspace のお客様と Workspace Individual の契約者が対象になります。
逆に言えば、このトグルを触っていない組織では、今回の変更で GAS が止まることはありません。まず「自社がトグルをオンにしているか」だけを見てください。 ここが「はい」でなければ、以降は読まなくて構いません。
データリージョン自体の考え方と、どこまでが制御できる範囲なのかは、Google Workspace のデータリージョンと処理場所の関係で整理しています。
止まるのは「どのスクリプト」ではなく「どのクラス」
ここが誤解されやすいところです。無効化はスクリプト単位でも、プロジェクト単位でもありません。特定のクラスと高度なサービスを呼んでいる行が止まります。1つのスクリプトの中に対象と非対象が混在していれば、その行だけが失敗します。

| 区分 | 該当するもの |
|---|---|
| リージョン化されていないクラス | Charts、FormApp、GroupsApp、Jdbc、Maps |
| リージョン化されていない高度なサービス | AdminDirectory、AdminReports、AdSense、Analytics、AnalyticsAdmin、AnalyticsData、BigQuery、Chat、Classroom、ShoppingContent、MerchantApi、DoubleClickCampaigns、TagManager、Tasks、YouTube、YouTubeAnalytics、YouTubeContentId |
社内で実際に効いてくるのは、だいたいこのあたりです。
FormApp— Google フォームの回答をスクリプトから読んで加工している処理。申請・アンケート・日報の自動化はここに載っていることが多いAdminDirectory/AdminReports— ユーザー・グループの棚卸し、ログイン状況のレポート。情シスの月次作業がこれで自動化されている場合、月初に気づくことになりますGroupsApp— グループのメンバーを取得して権限を突き合わせる処理Jdbc— 社内の MySQL / SQL Server に直接つないでいるスクリプト。基幹データを Google スプレッドシートに引いている構成は要注意Chat— Google Chat へ通知を飛ばす処理。障害通知やリマインダーが静かに届かなくなります
Jdbc と Chat の組み合わせ、つまり「社内DBを見に行って、異常があれば Chat に流す」型の監視スクリプトは、止まっても誰も気づかないのが怖いところです。通知が来ない状態と、異常がない状態は、受け取る側からは区別がつきません。
自社が対象かを30分で確認する
順番に見ていきます。
- 管理コンソールで設定を確認する。 データ > コンプライアンス > データリージョン > 詳細設定 を開き、ドライブとドキュメントに関する無効化のトグルの状態を見ます。オフなら、ここで終わりです
- 稼働中のスクリプトを洗い出す。 個人アカウントに紐づいた GAS は一覧化しづらいのが実情です。少なくとも、共有ドライブ上のスプレッドシート・フォームに紐づくコンテナバインドのスクリプトと、スタンドアロンのスクリプトプロジェクトを拾います
- ソースを文字列で検索する。 上の表のクラス名・サービス名をそのまま検索します。
FormApp.、AdminDirectory.、Jdbc.のようにドットまで含めると誤検出が減ります。高度なサービスはappsscript.jsonのdependencies.enabledAdvancedServicesにも定義が残るので、そちらも合わせて見ます - 止まったときの影響を書き出す。 「止まると誰が困るか」を1行で書けないスクリプトは、たいてい止めてよいものです。この機会に棚卸しすると、対応対象はかなり減ります
長く放置された GAS の扱いについては、Google Apps Script を保守し続ける判断でも触れていますが、作った本人が退職しているケースがいちばん時間を食います。ソースを読める人を先に確保してください。
止まったときに取れる手当て
対象が見つかった場合、選べる道は大きく3つです。
リージョン化された代替に書き換える。 これがいちばん素直です。たとえばフォームの回答は、FormApp で読む代わりに、回答をスプレッドシートに出力させて SpreadsheetApp で処理する形に寄せられることがあります。すべてが置き換わるわけではありませんが、簡単な集計なら十分です。
処理を Apps Script の外へ出す。 Jdbc で社内DBを直接見ているようなものは、もともと GAS で持つには重い処理です。データリージョンの制約を機に、サーバー側のバッチへ移すほうが、長期的には管理しやすくなります。
トグル側を見直す。 データリージョンの厳格化が、規制対応のために必須なのか、念のため入れたものなのかを確認します。後者であれば、業務が止まるコストと見合っているかを再評価する余地があります。ただしこれは情シスだけで決める話ではないので、法務・経営と合わせて判断してください。
いずれの場合も、9月28日以降に段階展開されるという前提で逆算します。展開は一斉ではないため、「まだ動いているから対象外」と判断するのは早計です。
つまずきやすいところ
実行ログでの気づきにくさが、この変更のいちばんの難点です。GAS のトリガー実行は失敗しても画面に何も出ません。実行数のダッシュボードと、失敗時のメール通知が有効になっているかを、確認作業と同時に見ておいてください。
もうひとつ、個人アカウント配下のスクリプトです。管理者が把握していない自動化が動いているのは、むしろ健全に業務改善が進んでいる証拠でもあります。棚卸しを「勝手なことをするな」という話にすると情報が出てこなくなるので、止まると困るものを教えてほしい、という聞き方にしたほうが集まります。
次にやること
最初の一手は、管理コンソールでトグルの状態を見ることだけです。ここがオフなら今回は対象外で、作業は発生しません。オンだった場合に、スクリプトの洗い出しへ進んでください。
Google Workspace のデータリージョン設定の見直し、社内 GAS の棚卸しと書き換え、Apps Script から外に出す部分の設計については、グリームハブの IT・Google Workspace 無料相談で承っています。現在の設定と稼働中のスクリプトによって進め方が変わるため、お問い合わせからご相談ください。









